実話をアレンジすることで人間ドラマに厚みをもたらす
また、本作は、グランツーリスモプレイヤーからプロのレーシングカードライバーになったヤン・マーデンボローの伝記的映画とされている。しかし本作では、史実と異なる変更点もいくつか存在する。
例えば、映画序盤で描かれる、2015年にドイツの自動車レース場ニュルブルクリンクでヤン・マーデンボロー起こした、観客に死者を出したクラッシュ事故。これは実際の事件ではあるが、映画と史実とでは描かれ方が若干異なっている。
映画では、序盤で描かれていることからわかるとおり、主人公がキャリア初期に起こした事件であり、ヤンは事件によってレーサーとして躍進するきっかけを得る。一方、史実においてこのクラッシュは、ヤン・マーデンボローのキャリア初期に起こったものではなく、すでにレーサーとして実績を積んだ後に起こった事件である。
作り手は、このクラッシュ事故をあえて序盤に配することで、主人公の運命が変わるターニングポイントを印象的に演出することに成功している。
また、本作には史実には存在しない、架空の登場人物も登場する。何を隠そう、先に紹介したデヴィッド・ハーバー演じる、鬼教官・ジャック・ソルターもその一人だ。
本作は史実を大胆に変更しているが、それは、作品に車のカッコ良さや、迫力だけではない、人間的でハートフルな魅力を付け加えようという作り手の狙いに基づいている。