冒頭を彩るモンテヴェルディのオペラ『オルフェオ』(1607)の序曲
舞台となるトンバローリたちの活動地域はひどく鄙びた田舎に見えるが、じつのところは『幸福なラザロ』の封建的な村落と同じく、首都ローマを擁するイタリア中部ラツィオ州の物語である。
ラツィオ州からトスカーナ州にかけてのイタリア半島中部は、ローマ建国以前から古代エトルリア人が、ギリシャ文明とはまったく異なる独自の文明を築いていた。隣人であるローマ人たちはエトルリア人の先進的な文化や技術を模倣しながら、自分たちの時代が到来するのを待っていたのである。
アリーチェ・ロルヴァケルの映画はそういう、すでに失われた美、失われた聖性を再発見していくような、独特なきらめきと高貴さが鈍く光っている。
映画は列車の客室から始まる。座席で居眠りする主人公アーサー(ジョシュ・オコナー)は、姿を消した婚約者ベニアミーナ(イレ・ヤーラ・ヴィアネッロ)の夢を見ている。
燦々と降り注ぐ太陽のもと、こちらを見つめるベニアミーナ。検札の車掌に叩き起こされたアーサーは不機嫌なままに車両の廊下に出る。すると、たった今まで夢に見ていたベニアミーナに降り注がれたのとそっくりな陽光が廊下をまだらに照らし出し、そこにモンテヴェルディのオペラ『オルフェオ』(1607)の序曲が奏でられ、観客を異様なる高揚感へといざなうだろう。
『オルフェオ』はオペラの創始者とされるモンテヴェルディ(1567-1643)の最初のオペラ作品である。アリーチェ・ロルヴァケルの映画の発掘的な精神が、今回またしてもオープニングから噴出している。