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枯淡の境地に達したイーストウッドの傑作―演出の魅力

イーストウッドと『ヒア アフター』のキャスト陣【Getty Images】
イーストウッドと『ヒア アフター』のキャスト陣(第48回ニューヨーク映画祭にて)【Getty Images】

 臨死体験、サイキック、ヒーリング―。こういった用語が跋扈するスピリチュアルの世界は、科学的に解明できないという点で「うさんくさい」世界だと思われがちだ。しかし、他方で、死後の世界が存在するという事実は、多くの人の支えになってきたのもまた事実だ。現にイーストウッドは、次のように語っている。

「来世にはペテン的な側面があり、死後の世界があるという人々の信念を食い物にしている人たちがいる。ただ、どうやら人類は、今世が自分の人生であり、今世でベストを尽くし、楽しめばそれで十分なのだということを受け入れようとはしないようだ。不老不死や永遠の命といった宗教的なものを受け入れなければならないが、はっきりとした答えはない。もしかしたら来世があるのかもしれないが、私にはわからない。私はただ物語を語るだけだ」( “Eastwood On The Pitch”『LA Weekly』2009年12月10日号)

 本作は、『ミリオンダラーベイビー』(2004)で知られる名匠クリント・イーストウッドが手掛けるヒューマンドラマ。脚本はNetflixドラマ『ザ・クラウン』(2016~2023)で知られるピーター・モーガンで、製作総指揮はスティーブン・スピルバーグが担当。主人公のジョージをイーストウッド作品ではおなじみのマッド・デイモンが演じる。

 津波で一度死にかけた女性ジャーナリストのマリーと、霊視者として活躍していた工場勤務の男ジョージ、そして事故で双子の兄を失くし、もう一度彼と話したいと霊能力者を訪ね歩く少年マーカス―。本作では、これらの3つの物語が、「運命の糸」の導きでひとつに縒(つづ)り合わさっていくさまが描かれる。その描写は人によっては地味でじれったく感じるかもしれないが、枯淡の境地に達したイーストウッドらしい実に味わい深いものになっている。

 また、本作を語る上で欠かせないのは、イーストウッドとスピルバーグの巨匠同士の夢のタッグだろう。スピルバーグは、本作の脚本を読んだ際、イーストウッドが監督をすべきだと即決。イーストウッドも脚本を気に入り、メガホンを取ることを快諾したという。

 なお、本作は、2011年2月に国内で公開されたが、翌月の3月11日に東日本大震災が発生。スマトラ島沖地震の描写が震災被害を想起させるとの理由から、1カ月ほどで上映が中止されている。特に、本作冒頭の津波のシーンは、人によってはトラウマの呼び水となる可能性があるため、鑑賞の際は十分ご注意いただきたい。

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