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驚きの実話。映画化に至った経緯

映画『ヒットマン』
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 ふだんはニューオーリンズ大学で哲学と心理学の教鞭に立つ冴えない独身者。ところがもうひとつ別の顔は、ニューオーリンズ警察の民間協力者としておとり捜査の有能な「モグラ」(英語でMole/注:ターゲットの犯罪証拠を引き出すためにターゲットの協力者を装ったり、組織に潜伏したりする諜報スタッフのこと)。

 グレン・パウエルはこのジキル&ハイド的な役柄を嬉々としてこなしている。それもそのはず、プロの殺し屋になりすまし、殺人依頼者を70名も逮捕に導いた実在のモグラ、ゲイリー・ジョンソン氏(1947-2022)の業績を描いた「テキサス・マンスリー」誌の取材記事をリンクレイター監督に推薦し、「これを一緒に映画化しよう」と持ちかけたのが、グレン・パウエル本人だからである。

 やる気に満ちるグレン・パウエルは共同脚本家としても参加し、ふたりは執筆中、実際の嘱託殺人を念入りにリサーチし、監視カメラや盗聴音声のライブラリーを何時間も一緒にチェックしつづけた。そこで聴いた本物の殺人依頼の際にリアルな会話は、この『ヒットマン』の中でセリフとして活用されている。

 ここにもうひとりのキーパーソンが浮上する。原作となった該当記事の著者スキップ・ホランズワースである。彼は「テキサス・マンスリー」誌の編集主幹を務めるかたわら、映画脚本にも進出している。それは、彼が「テキサス・マンスリー」1998年1月号に寄稿した実話記事をもとに映画化された『バーニー/みんなが愛した殺人者』(2011)であり、じつはこれこそ、リチャード・リンクレイター監督の影の最高傑作とも称される1本なのである。

 ヒューストン出身の映画作家がオースティン出身の子役と知り合って意気投合し、次に「テキサス・マンスリー」誌のジャーナリスト、ホランズワースの書く実話に魅了され、こんどはその元・子役がホランズワースの別の記事を映画作家に推薦する。南部テキサスで申し合わせたように人と人とが、物語が、登場人物が、連綿とつながっていく。

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