当事者性から出発しつつも普遍性を志向する。映画『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』が示すアメリカ映画の現在地
アレクサンダー・ペイン監督の最新作『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』が公開中だ。第96回アカデミー賞では作品賞、脚本賞、主演男優賞、助演女優賞、編集賞の5部門にノミネートされ、ダバイン・ジョイ・ランドルフが助演女優賞を受賞した本作のレビューをお届けする。(文・冨塚亮平)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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【著者プロフィール:冨塚亮平】
アメリカ文学/文化研究。神奈川大学外国語学部准教授。ユリイカ、キネマ旬報、図書新聞、新潮、精神看護、ジャーロ、フィルカル、三田評論、「ケリー・ライカートの映画たち漂流のアメリカ」プログラムなどに寄稿。近著に共編著『ドライブ・マイ・カー』論』(慶應大学出版会)、共著『アメリカ文学と大統領 文学史と文化史』(南雲堂)、『ダルデンヌ兄弟 社会をまなざす映画作家』(neoneo 編集室)。
共通点のない3人が関係性を深めていく様を、丹念に追う
舞台は1970年、マサチューセッツ州に位置する全寮制の名門男子校バートン校。厳格さと生真面目さゆえに生徒にも同僚にも嫌われている古代史の教師ハナム(ポール・ジアマッティ)は、議員の息子を落第させた当てつけとして、かつての教え子でもある校長から、クリスマス休暇中に寮に残る生徒たちの監視役を務めるよう命じられる。
一方、生徒たちがそれぞれに休暇の準備を進めているなか、直前で母親に約束を破られ、休暇中の予定がなくなったアンガス(ドミニク・セッサ)は、渋々わずか数名の居残り組の生徒たちとハナム先生の元に合流する。5名の生徒たちに加え、一人息子のカーティスをベトナム戦争で亡くした料理長のアフリカ系女性メアリー(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)もまた、息子と最後に過ごした学校で年を越すことを決意する。
数日を7人で過ごしたのち、学校に1台のヘリコプターがやってくる。1人の生徒の父が、スキー旅行に行くため息子を迎えにきたのだ。それぞれに両親と連絡をとることができたアンガス以外の生徒たちは、揃ってスキーへと出かけていく。
こうして学校には、これまでに互いに深く知り合うきっかけを一切持たなかった3人、ハナム、アンガス、メアリーだけが残される。これ以降映画は、3人がそれぞれに互いの抱える苦悩や秘密を明かしあいながら関係性を深めていく様を、丹念に追うこととなる。