映画表現の限界を目指す―演出の魅力
本作は、『グリーン・インフェルノ』(2013年)や『ノック・ノック』(2016年)で知られるホラー界の俊英イーライ・ロスによるサスペンスホラー映画。主人公のパクストンをジェイ・ヘルナンデスが演じる。
ホラー映画には、「スプラッター」と言われるジャンルがある。このジャンルは、拷問や人体解体といった加虐描写が特徴の映画を差し、ホラー映画でもとりわけ「キワモノ」と見なされることが多い。
本作では、こういったスプラッター要素に加え、女性のヌードやセックスシーンといったポルノ要素もあちこちに盛り込まれている。そういった意味で本作は、観客の脳みそに直接語りかけ、情動を煽る“エロ・グロ”映画といえるかもしれない。
しかし、本作を単なる「下品な映画」とみなすのはいささか早計だろう。公開当時、「ニューヨークタイムズ」では「この作品では、野卑な言葉、偏見、薬物の服用、裸、そして、極めて生々しい拷問、切断、殺人が絶え間なく描かれ、この種の映画の限界に挑んでいる」と書かれており、むしろ映画の極北を目指す作品と捉えられなくもない。
本作の舞台は中央ヨーロッパに位置する実在の国・スロバキア共和国。見かけは楽園だが、実態は倫理のタガの外れた人々が集う場所として描かれており、本作を観ることで、同国に対してネガティブなイメージを持ったという方もいるかもしれない。
しかし、実際のところ、本作に着想を与えたのは、スロバキアではなく、タイの闇サイトに掲載されていたという「大金を出せば殺人が体験できる裏ビジネス」の話である。この記事にインスパイアをされたイーライ・ロスが映画的想像をフルに働かせて、物語を膨らませていったのが本作であるというわけだ。
もし仮に、本作の舞台が元ネタ通りタイであったら、欧米人によるアジア人蔑視など、より多様な問題が描かれることになったのではないかと想像できる。しかし、イーライ・ロスは、視聴者の意識が社会問題に向くことのないよう、あえて舞台をヨーロッパにすることで、「性と暴力」というテーマを際立たせることに成功している。
なお、本作は、2007年、2011年にそれぞれ『ホステル2』『ホステル3』としてシリーズ化されており、『ホステル3』では残虐非道な拷問と殺人というテーマはそのままに、舞台がラスベガスに変わっている。本作を気に入った方は続編を観てみるのもいいかもしれない。