アイヒマンの死体をめぐる政治的な駆け引き
舞台は1960年、ユダヤ人の国として建国されたイスラエルだ。第二次大戦においてドイツの敗戦濃厚とみたアイヒマンは、イタリア、そしてアルゼンチンと、15年以上にわたり逃亡生活を続けた挙げ句、モサドと呼ばれるイスラエル諜報特務庁によって捕らえられる。
翌1961年に首都エルサレムの裁判所にて、15の犯罪に問われ死刑判決が下され、絞首刑が確定するが、公判の中で彼は「一人の死は悲劇だが、集団の死は統計上の数字に過ぎない」と、開き直ったような言葉を残したのは、あまりにも有名だ。
本作の物語はここから始まる。イスラエルの“死刑を行使する唯一の時間”の規定により、1962年5月31日から6月1日の日が変わる真夜中に執行されることになる。しかし、イスラエルには、宗教的・文化的観点から「火葬」という習慣がないため、処刑後、アイヒマンの遺体をどうするのか、論争が交わされる。
従来の「土葬」では水質汚染に繋がるため、結果、火葬されることが決まるが、そのための火葬場などはないため、秘密裏に焼却炉の建設が進められることになった。