火種が燃え尽きても、火傷の傷は消えない
しかし突如、デイビットは、工場長から「クビ」を言い渡される。その理由として、懐中時計を盗み出したことを挙げられるが、理由など、どうでもよかったのだ。要はユダヤ人でもない少年を“用済み”とばかりに使い捨てただけだった。
イスラエルとは、ホロコーストから逃れたユダヤ人が、パレスチナに逃れたことを発端に、落下傘的に建てられた国だ。その結果、多くのパレスチナ難民を生み出し、近隣国との摩擦によって、幾度にも及ぶ中東戦争を引き起こした。
もちろん、第二次大戦時にはナチスドイツに迫害され、絶滅させられる寸前だった過去を持つユダヤ人にも、大いに同情の余地があろうが、イスラエルにおけるユダヤ人の排他的な態度も目につき、それは主にアラブ系に向けられていることがわかる場面もある。そして、その差別意識や周囲との摩擦は、現在も続いているのだ。
アイヒマンの遺灰は、船に乗せられ、イスラエル領海外に出たところで、地中海に散骨される。形だけはイスラエルの習慣に則り、この極秘計画は終わる。