ホーム » 投稿 » 海外映画 » 劇場公開作品 » 「捨てること」と「拾うこと」をめぐる極上のメロドラマ。映画『枯れ葉』徹底考察&評価。アキ・カウリスマキ最新作レビュー

「捨てること」と「拾うこと」をめぐる極上のメロドラマ。映画『枯れ葉』徹底考察&評価。アキ・カウリスマキ最新作レビュー

text by 冨塚亮平

フィンランドの名匠アキ・カウリスマキが5年ぶりにメガホンをとり、今年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞したラブストーリー『枯れ葉』が公開中だ。カウリスマキ映画のなかでもかつてないほどまっすぐな愛の物語のレビューをお届けする。(文・冨塚亮平)<あらすじ キャスト 考察 解説 評価 レビュー>

———————-

【著者プロフィール】

アメリカ文学/文化研究。神奈川大学外国語学部助教。ユリイカ、キネマ旬報、図書新聞、新潮、精神看護、ジャーロ、フィルカル、三田評論、「ケリー・ライカートの映画たち漂流のアメリカ」プログラムなどに寄稿。近著に共編著『ドライブ・マイ・カー』論』(慶應大学出版会)、共著『アメリカ文学と大統領 文学史と文化史』(南雲堂)、『ダルデンヌ兄弟 社会をまなざす映画作家』(neoneo編集室)。

「捨てること」と「拾うこと」をめぐるメロドラマ

映画『枯れ葉』
© Sputnik

 引退宣言を撤回したアキ・カウリスマキ監督が完成させた六年ぶりの新作『枯れ葉』は、「捨てること」と「拾うこと」をめぐる極上のメロドラマである。『パラダイスの夕暮れ』(86)、『真夜中の虹』(88)、『マッチ工場の少女』(90)から成る労働三部作の続編と位置づけられる本作は、まず『パラダイスの夕暮れ』の主人公カップルを濃厚に想起させる設定で幕を開ける。

 同作のイロナと同様にスーパーで働くアンサ(アルマ・ポウスティ)は、孤独と貧困に耐えながら暮らしている。すでに状態が悪くなっていたのか、レンジで加熱したインスタント食品をすぐさまゴミ箱へと捨てる彼女のアクションが生活の侘しさを際立てる一方で、自宅の古いラジオからはロシアのウクライナ侵攻のニュースが流れる。

 主人公イリスの母と義父がテレビで天安門事件のニュースを眺める場面が繰り返し挿入される『マッチ工場の少女』のように、『枯れ葉』ではウクライナ侵攻と若くない主人公たちがヘルシンキで直面する苦しみが、いずれも現在進行形の問題として併置される。

 一方、工事現場で働くホラッパ(ユッシ・ヴァタネン)は、捨てられた鉄クズの回収や再処理に従事している。禁煙と書かれたベンチで煙草を吸いポイ捨てし、密かに現場に酒を持ち込むことでなんとか日々をやり過ごす彼の姿は、ゴミ収集車の運転手であった『パラダイスの夕暮れ』のニカンデルをはじめ、多くのカウリスマキ映画を彩ってきた男たちと重なりあう。

 ある日の夜、仕事の憂さ晴らしに出かけたカラオケで、二人ははじめて出会う。その後程なくしてアンサは、仕事中にこれから廃棄される予定の食品を貧乏な若者に譲っているところを目撃されてしまい、商品を盗んだ咎で解雇されてしまう。廃棄の食品は規則通り捨てろという上司の言葉に怒った彼女は、捨て台詞を放ってその場を去る。

 アンサは、捨てられる予定だった商品を拾って譲ったことで、ある意味で職場から捨てられる。捨てることと拾うことが絡みあうなかで出会った二人はこれ以降、この主題をめぐってあたかも古典メロドラマのようにすれ違い続け、その果てに見事再会を果たすこととなる。

1 2 3 4 5
error: Content is protected !!