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独特の詩情を生む2つの時間―脚本の魅力

モニカ・ベルッチ、ギャスパー・ノエ監督、ヴァンサン・カッセル
モニカベルッチギャスパーノエ監督ヴァンサンカッセルGetty Images

時間軸が通常の映画とは逆行している本作には、2つの時間軸が存在している。

1つは観客が体験する映画の時間、もう1つは映画内の登場人物が体験している時間(映画の時間軸とは逆行した時間)だ。

作中では、これらの時間軸が混在しているため、観客はまず出来事の結末から知り、シーンが変わるとその結末に至った経緯や動機を知ることになる。

ここには、ミステリーの「倒叙もの(犯人視点で物語が進む形式)」に似た面白さがある。

また、ゲイクラブの名称である「Rectum(直腸)」やトンネル、そしてレイプ犯の名前である「テニア(条虫)」など、パイプ状のモチーフが全編に散りばめられているのも注目だ。

これらのどこか詩的なモチーフは、本作のラストで、アレックスがマルキュスに語る次のセリフに帰結する。

「夢を見た。変な夢だった。赤いトンネルが破れるの」

この夢が後に(映画のタイムラインでは前だが)アレックスが語るように予知夢だったとすれば、アレックスがレイプされる地下道や赤い照明に染められたゲイクラブを象徴していると考えられるだろう。

しかし、映画が進むと、もう1つあるモチーフを象徴していることが判明する。それは「産道」だ。

あらすじにも記載されている通り、マルキュスとのセックスの後、トイレで妊娠検査薬をチェックする。その瞬間、アレックスの顔はほころぶ。ここから、彼女が実はマルキュスとの子どもをお腹に宿していたことが分かる。

つまり、「直腸(死)」から幕を開けた本作は、最後に「産道(生)」に回帰して幕を閉じるのだ。

本作のラストシーンでは、草むらに横たわり読書をするアレックスの横で子供たちが遊んでいる。時間軸から考えるとこのシーンはアレックスの「過去」と考えるのが順当だが、アレックスの「失われた未来」と考えることもできるかもしれない。

なお、本作には、時系列を逆行させた「ORIGINAL CUT」版に加え、時系列を通常の映画に戻した「STRAIGHT CUT」版が存在する。双方を見比べてみるのもまた面白いだろう。

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