『フュリオサ』はマッドマックスシリーズの「5」ではない
フュリオサを演じるアニャ・テイラー・ジョイは目ヂカラ強めで予想以上のハマりっぷり。ジョージ・ミラー監督は『ウィッチ』(2017)で注目し、『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)で起用を決めたというが、むしろ『スプリット』(2017)で垣間見せた素朴さを発展させたような佇まいだ。
ただ、役柄的にフュリオサは“復讐の女神”なので、その言動は悲しみを常に讃えており、重い。
『マッドマックス2』(1982)や、『怒りのデス・ロード』における主人公マックスは、どこにも属さないアウトローだった。それでいて、自分には全く得がないのに人助けをするからこそヒーロー性が醸し出されていた。
『フュリオサ』には、そんな英雄がほぼ存在しない(強いて言えば、フュリオサの母親くらい)。
最終章では、フュリオサとディメンタスが復讐と生存本能について情念をぶつけあう。ここにジョージ・ミラー監督の伝えたいことが詰まっているのはわかるが、バカマッチョだったディメンタスが急に哲学的なことを語りだすのでちょっと戸惑う。
『怒りのデス・ロード』の爆音上映のように、深く考えずに「ヒャッハー!」したかったタイプの観客にとっては、ちょっと飲み込みづらい展開かもしれない。
ただ、今作はあくまでもスピンオフで、マッドマックスシリーズの「5」ではない。原題に「A MADMAX SAGA」と付いているとおり、あの世界で起こった歴史を綴る叙事詩なのだ。バイオレンスとカーチェイスの果てに普遍的な英雄譚を宿すのではなく、最初からフュリオサという神話を語ろうとしているので、ジャンルが違うともいえる。
とはいえ、「マッドマックス」の看板とジョージ・ミラー監督でしか辿り着けない世界観に達しており、さらに想像を超えてくる底力には心が震える。
砂、炎、マシンの躍動を活かした、目に焼き付いて離れないキメ絵のパワフルさ。フュリオサを下から見上げたカットの神々しさ。物語のテーマだけでなく、設定の奥深さ、キャラクターの掘り下げ、メカのディテール、五臓六腑に染み渡るエンジン音など、すべてにおいて濃密で、情報量過多である。
筆者が観た回の上映終了後には、一部で拍手が巻き起こったが、全員ではなかった。たぶん、手を叩かなかった観客は、圧倒的な映像に対峙した疲労感で身動きが取れなかったのではないか。
とにかく、1回観ただけでは理解が追いつかない。なるべくデカいスクリーンで何度も観るべき作品であることは間違いない。
(文・灸怜太)
【作品概要】
■タイトル:『マッドマックス:フュリオサ』
■公開日:5月31日(金)全国ロードショー!日本語吹替版同時上映 IMAX/4D/Dolby Cinema/SCREENX
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IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation.
監督:ジョージ・ミラー
出演:アニャ・テイラー=ジョイ、クリス・ヘムズワース
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト:MADMAX-FURIOSA.jp #マッドマックス #フュリオサ
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