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映画『メイ・ディセンバー ゆれる真実』が描く「鈍い後味の悪さ」とは? 一筋縄ではいかないメロドラマを考察&評価レビュー

text by 冨塚亮平

社会を騒がせた36歳の女性と13歳の少年の不倫騒動“メイ・ディセンバー事件”を基にした映画『メイ・ディセンバー ゆれる真実』が公開中だ。メガホンをとったのは『キャロル』(2015)のトッド・ヘインズ。ナタリー・ポートマンとジュリアン・ムーアが共演した本作の魅力を多角的な視点から読み解く。(文・冨塚亮平)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】 

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【著者プロフィール:冨塚亮平】 

アメリカ文学/文化研究。神奈川大学外国語学部准教授。ユリイカ、キネマ旬報、図書新聞、新潮、精神看護、ジャーロ、フィルカル、三田評論、「ケリー・ライカートの映画たち漂流のアメリカ」プログラムなどに寄稿。近著に共編著『ドライブ・マイ・カー』論』(慶應大学出版会)、共著『アメリカ文学と大統領 文学史と文化史』(南雲堂)、『ダルデンヌ兄弟 社会をまなざす映画作家』(neoneo 編集室)。

名匠トッド・ヘインズ最新作は「一筋縄ではいかないメロドラマ」

©2023. May December 2022 Investors LLC, ALL Rights Reserved.
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 トッド・ヘインズ監督の最新長編『メイ・ディセンバー ゆれる真実』は、同名の事件をモデルとしつつも事件そのものに焦点を当てるわけではない、一筋縄ではいかないメロドラマだ。

 親子ほど歳が離れたカップルを意味する慣用句「メイ・ディセンバー」の名で呼ばれる事件が起きたのは1996年のこと。教師で既婚者のメアリー・ケイ・ルトーノーと、当時13歳だった生徒の少年ヴィリ・フアラアウとの不倫が発覚し、メアリーは実刑判決を受ける。少年との子供を獄中で出産した彼女は、出所後に離婚して少年と再婚、その後2018年にヴィリの申請により離婚が成立、メアリーは2020年に亡くなる。

 映画は、かつて大きなスキャンダルを引き起こした事件が映画化されることとなり、メアリーをモデルとする主人公グレイシー(ジュリアン・ムーア)を演じることとなった女優エリザベス(ナタリー・ポートマン)が、今は家族と友人たちに囲まれ平穏に暮らすグレイシーの元を訪ねるところから始まる。

 エリザベスは、グレイシーと夫のジョー(チャールズ・メルトン)をはじめとする一家に密着し、周囲の人物に取材を行うことで、事件の真相とグレイシーの複雑な人物像に肉薄しようとする。われわれ観客もまた、エリザベスの役作りの過程に付き添うなかで、事件とその後の日常についての理解を次第に深めていく。

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