ドレスの試着シーンで露呈するグレイシー(ジュリアン・ムーア)の独り善がりな態度
ムーア演じるグレイシーは、良く言えば積極的に周囲を巻き込んでいくエネルギーに満ちた女性だ。全米を巻き込んだスキャンダルの当事者であれば、周囲からの好奇の目を恐れてもう少しひっそりと暮らそうと考えるのではないか、といった予想に反して彼女は、近所の友人たちや子供たちを招いてバーベキューを主催し、生花教室に通い、自作のケーキを販売する。
そして彼女は、自分を演じようとする女優を繰り返し自宅に招き、家族や友人を紹介しもする。そもそも彼女はなぜそんなことをするのか。その疑問は、彼女の押しの強すぎるパーソナリティが示されることですぐに氷解する。
さらに、夫のジョーや当時の弁護士、元夫家族らの証言や、いかにもメロドラマ的に誇張されたコミカルかつ恐ろしい細部の演出の数々を経て次第に明らかになるのは、単にバイタリティに溢れているとして片付けることは到底できない、自覚がないままに周囲の人物たちをコントロールし、気を使わせてしまうグレイシーの独りよがりな態度である。
たとえば、グレイシーとエリザベスに付き添われた娘が、卒業式で着るドレスを試着する場面。ここでグレイシーは、ほとんど閉めていないのではというほどにシャツのボタンをいくつも開け、胸元を露わにしたスタイルで娘の試着を見守る。
まず比較的地味なドレスを一着試した後で、彼女は次に腕を出した露出度の大きいドレスに着替える。決して痩せてはいない自分の体型を気にする素振りを見せつつも、ドレスを気に入った様子の娘に対してグレイシーは、今の子はこんな風に肌を見せることができて素晴らしい、と無神経にコメントする。
そんなボタンの開け方をしている女が何を言う、と誰もが思うタイミングで、娘はショックを受けた様子で次のドレスに着替える。悪びれる様子もなく、自らの発言が娘に及ぼした影響に気づいていないようにしか見えないグレイシーの姿は、鏡を通して画面右側に巧みに捉えられる。