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不器用な女性を演じるナタリー・ポートマンの魅力

©2023. May December 2022 Investors LLC, ALL Rights Reserved.
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 一方でエリザベスは、役作りの過程であらゆる角度からグレイシーを模倣しようとする。そのどこか努力の方向性が間違っているのではないかと思わせる生真面目さもまた、時に笑いを誘う。

 たとえば、グレイシーとジョーが行為に及んだペットショップを訪ねた彼女は、事件現場でグレイシーの振る舞いを模倣しようと嬌声を上げる。ここでのエリザベスの懸命さは、どこか『ブラック・スワン』(2010)でポートマンが演じたバレリーナのニナが、ライバルの自分にはない色気に対抗するため、コーチからのラサール石井ばりのセクハラでしかない助言を真に受けて自慰行為に挑戦する、滑稽かつ悲哀に満ちた名場面を思い起こさせる。

 融通がきかず神経質な、結果的に全ての努力が空回りしてしまうような不器用な女性を演じさせたら、現在のハリウッドで彼女の右に出る者はいないのではないか。

 さらにこの場面では、ジョセフ・ロージー『恋』(1971)で使用されたミシェル・ルグランの楽曲とホン・サンスも真っ青の高速ズームが、火曜サスペンス劇場と錯覚してしまいそうになるほどの安っぽさと悪趣味スレスレの過剰さで観る者を圧倒する。

 滑らかな演出というレベルを明らかに超えて激しく主張するルグラン楽曲のド派手なメロディと必要以上に素早く激しいカメラの動きは、冒頭にバーベキューを準備するグレイシーが冷蔵庫の中身を確認し一言「ホットドッグが足りない」と語る、思わずずっこけそうになるシーンから、要所で登場人物たちの感情が高揚する瞬間をあからさまに示す符牒として反復される。

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