時代遅れの文化を新鮮に提示するトッド・ヘインズの演出
自らが青春時代を過ごした70年代に流行した、今や時代遅れのものとして片付けられがちな文化を、単に現代風にアップデートするのではなく、それでも新鮮に提示し直す。本作でのルグランの楽曲の使い方や、ベルイマンやアルトマンの70年代作品からの影響の取り入れ方もまた、過去にカーペンターズやグラムロックに新たな光を当ててきたヘインズ演出の真骨頂と言えよう。
さて、こうしたどぎつい演出に彩られたエリザベスのグレイシー研究はどこに辿り着くのか。たとえば、鏡の前でグレイシーがエリザベスにメイクの方法を教える長回しのシークエンスは、ストーリー上に占める位置としても、ムーアとポートマンの女優対決という意味でも、わかりやすいハイライトの1つだろう。
しかし、より興味深いのはさりげない細部の変化だ。エリザベスは、メイク同様に衣装のセンスや色使いについても少しずつグレイシーの好みを模倣していき、それらは2度目の鏡を前にしたツーショットを経て、娘の卒業式のあとで最後に語り合う、もはやほとんど双子のような2人の切り返しへと結実する。
また、外見を真似ることは彼女の内面を真似ることとも密接に関わる。グレイシーの娘の学校でゲスト講義を行った際のエリザベスは、試着室でのグレイシーの発言を想起させるように、教室に娘がいるにもかかわらず、複雑で道徳的に灰色の人物だからこそ演じたくなると語り、娘を呆れさせる。