タイトルに隠された真意ー脚本の魅力
脚本について触れる前に、まずは本作の原題”one flew over the cuckoo’s nest”について紐解いてみたい。
まず「cuckoo’s nest(カッコーの巣)」について。一般的に、カッコーは、托卵(自ら巣をつくらずに他の鳥の巣に自分の卵をまぜて育てさせる行為)の習性を持つ鳥として知られている。
そのため、アメリカでは「cuckoo」は「crazy(気の触れた者)」を意味するスラングとして用いられており、「カッコーの巣」は「精神病院」を意味するとされている。つまり、原題”one flew over the cuckoo’s nest”を直訳すると、「誰かがカッコーの巣(=精神病院)を飛び立った」となる。
では、一体誰が飛び立ったのか。この謎を紐解くヒントとなるのが、マザーグースによる以下の童謡だ。実はこの童謡には本作のタイトルが直接登場する。
Vintery, mintery, cutery, corn,
Apple seed and apple thorn;
Wire, briar, limber lock,
Three geese in a flock.
One flew east,
And one flew west,
And one flew over the cuckoo’s nest.
葡萄にミントにお菓子にコーン
りんごの種にりんごの棘
ワイヤにブライヤにふさふさの毛
ガチョウが三羽群れていた
一羽は東へ飛んでった
一羽は西に飛んでった
もう一羽はカッコウの巣の上に
ここで重要なのは、この童謡の出所が「インディアンのわらべ歌」であるということだ。つまり本作の原題の「One」とは、他ならぬチーフのことなのだ。
ろうあ者に擬態しているチーフは、自身の境遇について多くを語らないが、自身の父親が酒に溺れて衰弱していったこと、そして、弱りきったところを「自然に」始末したことをマクマーフィーに伝えている。
これは、ヨーロッパ人たちがアメリカに入植する際、酒に弱いネイティブアメリカンを泥酔させて自身に有利になるよう契約を進めてきたという歴史を連想させる。
つまり、本作に登場する患者たちは実はアメリカという体制のもとで煮え湯を飲まされ続けてきた社会的弱者たちのメタファーなのだ。そして、体制側はこういった弱者に「精神病」のレッテルを貼り、社会から隔離してきたのだ。
なお、チーフが主人公であったことは、本作のラストでようやく明らかになる。ロボトミー手術で廃人同然となった”救世主”に尊厳ある死を与えたチーフは、水道台を破壊して窓に向けて勢いよく投げつけると、そのまま原野へと飛び去っていくのだ。
-まるで、いかなるしがらみにもとらわれない鳥のように。