芸達者たちの饗宴ー演技の魅力
先にも述べた通り、本作の演技といえばまず筆頭に挙げられるのはジャック・ニコルソンの演技だろう。マクマーフィーをそのまま憑依させたかのような演技は、粗暴さを感じさせながらもどこかチャーミングであり、他の俳優の追随を全く許さない。
ジャック・ニコルソンと並び、ダブル主演に名を連ねるのは看護婦長役の女優・ルイーズ・フレッチャー。ロバート・アルトマン監督作品『ボウイ&キーチ』での演技がミロシュ・フォアマンに評価され、本作では、管理社会を象徴する、冷徹な女性を名演。アカデミー賞では最優秀主演女優賞に輝き、生涯の代表作とした。
彼女が演じた看護師・ラチェッドは、「映画史に残る悪役」といった企画が行われるたびに上位に名が上がる名キャラクター。本作のスピンオフとして、看護師のラチェットを主人公に据えたドラマシリーズ『ラチェット』が現在Netflixで公開されており、気になる方はぜひチェックしてほしい。
しかし、本作のMVPはジャック・ニコルソンやルイーズ・フレッチャーだけではない。彼を取り巻く無名な役者たちの自然な演技も必見だ。
撮影開始の数週間前に現場入りした彼らは、実際の精神病患者を病状の「人間観察」をひたすら行いながら、多忙なジャックの参加をひたすら待っていた。
その結果、彼らは演技のオンオフが次第になくなっていき、最終的に参加したジャックが恐れ慄いて逃げ出すほどの仕上がりになっていたという。つまり、本作のジャックの名演は、彼らの本気の演技にジャックが真正面から応えた結果なのだ。
なお、本作の役者には、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)のドク役で知られるクリストファー・ロイドや、『バットマン・リターンズ』(1992年)のペンギン役で知られるダニー・デヴィートなど、後に人気になる俳優が多数出演している。
ちなみに、「セラピーも兼ねて患者たちを映画製作に関わらせてほしい」とのリクエストから、エキストラとして実際に働く医師や看護師たちが出演。院長自身も出演しており、出演シーンは短いながらもなかなかの存在感をはなっている。
そして、本作で最も強烈な存在感を放っている人物といえば、やはりチーフを挙げなければならないだろう。演者のウィル・サンプソンは元々画家で、監督は2m超という身長から選んだという。
なお、サンプソンはその後映画俳優に転身し、映画の主演も果たしている。