『アマデウス』(1984)のモーツアルトとサリエリを思わせるオッペンハイマーとルイス・ストローズの関係
物語は若き日のオッペンハイマーが原爆を開発するまでと、1950年代の彼が交互に描かれるのだが、後者の彼は第二次大戦を終結に導いた(と少なくとも米国は主張している)英雄でありながら、赤狩りの公聴会でソ連のスパイ扱いされている。
一体どうして彼がこうした窮状に追いつめられたのかを、映画は時間軸を行き来しながら解き明かしていく。それとともに、物理学の世界がユダヤ系によって占められていたこと、ナチスを憎む一方でソ連にシンパシーを抱くものが多かったこと、ナチスを戦わずして降伏させる戦争抑止の最終兵器として原爆の発明を推進したこと、それがある時点から標的がドイツからその同盟国の日本に変えられ(ただし少なくとも1000万人の中国人を殺害したとされる日本は同情されていない)、なし崩し的に投下先が決まったことなど、おびただしい事実が浮かび上がっていく。
こうした政治ミステリーでありながら、オッペンハイマー失脚の原因が、ロバート・ダウニー・Jr.扮するルイス・ストローズが彼に抱いた嫉妬だったというオチが何とも皮肉だ。約40年前にアカデミー賞主要部門を独占した『アマデウス』(1984)のモーツアルトとサリエリの関係をなぞることによって、『オッペンハイマー』は賞レースの覇者となったのだ。