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『オッペンハイマー』の正しい鑑賞法とは

© Universal Pictures. All Rights Reserved.
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 そんなスター俳優たちを従えてタイトルロールを演じているのが、キリアン・マーフィーである。ノーランは彼のことが大のお気に入りで、『バットマン・ビギンズ』でブルース・ウェイン役のオーディションをダメ元で受けに来たマーフィーにスケアクロウ役を与えたばかりか、ダークナイト三部作すべてに登場させる優遇ぶり。その後も『インセプション』(2010)や『ダンケルク』(2017)といった作品で脇役として起用し続けてきた。

 今作で主役にキャスティングできたのは、マーフィーがテレビシリーズ『ピーキー・ブラインダーズ』(2013〜22)のヒットでスター俳優になったことが大きい。ノーランは、マーフィーのオーラが最大限に引き立つように、ビッグシルエットのスーツを着せて、オッペンハイマーのルックスを実像からロックスター、デヴィッド・ボウイの1970年代中期の姿に寄せている。

 この時期のボウイが俳優として主演した作品が『地球に落ちてきた男』(1976)である。宇宙からやってきた(かのような)理想主義者の天才が、地球政府のレベルの低さを目の当たりにして絶望していく姿を描くという図式において、『地球に落ちてきた男』のバリエーションとして観るのが、案外『オッペンハイマー』の正しい鑑賞法なのかもしれない。

 それでも『オッペンハイマー』にある種の政治的な正しさを求めたいという人には、あるシーンを注目してほしい。それは米国大統領トルーマンが「東京大空襲で民間人が10万人死んでいるのに、反対運動が起きないのが不思議だ」と自嘲するシーンである。

 広島と長崎に投下された原爆がもたらした甚大な損害の陰に隠れがちだが、米軍が東京に行った空襲によって、1945年3月10日のたった1日で、これほどの民間人が死んでいるのだ。映画の中で不可欠なセリフでもないのに、国外ではほとんど知られていないこの虐殺に言及した事実は大きい。ちなみに前述の『パール・ハーバー』のクライマックス・シーンは真珠湾攻撃ではなく、主人公たちが復讐のために実行する東京大空襲のシーンである。

(文・長谷川町蔵)

<作品情報>
監督・脚本・製作:クリストファー・ノーラン
製作:エマ・トーマス、チャールズ・ローヴェン
出演:キリアン・マーフィー、エミリー・ブラント、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・Jr.、フローレンス・ピュー、ジョシュ・ハートネット、ケイシー・アフレック、ラミ・マレック、ケネス・ブラナー
原作:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン 「オッペンハイマー」(2006年ピュリッツァー賞受賞/ハヤカワ文庫)/アメリカ
2023年/アメリカ 配給:ビターズ・エンド  ユニバーサル映画 R15
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