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マイノリティな俳優たちの力ー配役の魅力

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本作は、ハリウッドにおけるアジア人俳優の地位向上に決定的な影響をもたらした作品として知られている。

まずはエヴリン役のミシェル・ヨー。彼女はこれまで、アジア人の女性アクションスターの先駆けとして、『レディ・ハード 香港大捜査線』(1985)をはじめ、数々のアクション映画に出演しており、2013年にはマレーシア国王から最高勲章であるタンスリを授与されている。

本作で見せるミシェルの演技は、まさに彼女のキャリアの集大成と言っていいものだろう。戦闘シーンでは還暦とは思えないキレキレのアクションを披露しているほか、ドラマパートでは、母親らしい包容力を感じさせる演技で観客を魅了している。

ミシェルは本作でアジア系俳優としてはじめてアカデミー賞主演女優賞を受賞。また、映画業界における長年の功績が認められ、アメリカン・フィルム・インスティテュート(AFI)からアジア人初の名誉美術博士号を授与されたほか、TIME誌の2022年のパーソン・オブ・ジ・イヤーにも選出されている。

エヴリンの夫ウェイモンド役のキー・ホイ・クァンも忘れてはならない。クァンは、『グーニーズ』(1985)などで子役として活躍したものの、その後役を得られず、裏方として苦労を重ねており、本作が約30年ぶりの俳優復帰作となる。

そんな彼は、90%以上スタント無しで行ったというブランクを全く感じさせないアクションを披露。ベトナム人俳優としては史上初、中国系助演男優としては『キリングフィールド』(1985)のハイン・S・ニョール以来史上2度目のアカデミー賞助演男優賞に輝いた。

また、エヴリンの父親ゴンゴン役として、存在感を見せつけるのは、ジェームズ・ホン。映画俳優兼プロデューサーとして、1950年代から活躍してきたハリウッドの生き証人だ。映画が詳しい人なら、『ブレードランナー』(1982)のハンニバル・チュウといえば分かるだろう。本作ではとても94歳とは思えない矍鑠とした演技を披露している。

また、クィアの視点を組み込んだ配役も本作の魅力の一つだ。例えば、ジョイ/ジョブ役として、ミシェルと丁々発止の演技を繰り広げたステファニー・スーは、自身もLGBTQコミュニティに属している。また、作中では数少ない白人女性であるディアドラ役のジェイミー・リー・カーティスも、トランスジェンダーであることを公言している。

本作が名作になり得た秘密ー。それは、LGBTQや非西欧出身といったハリウッドのマイノリティ俳優たちの賜物なのだ。

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