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世界の巨匠が手がけるパニック映画の金字塔―演出の魅力

スティーブン・スピルバーグ監督
監督のスティーブンスピルバーグGetty Images

2019年7月、北海道のとある牧草地で、ヒグマの被害によるものとみられる牛の遺骸が多数発見された。当局は、遺骸に残された爪痕や歯型から本件を大型のヒグマによるものと断定。コードネームを「OSO(オソ)18」と名付けた。このクマはその後、2023年7月に捕獲されるまで北海道各地に出没。北海道のみならず日本中の人々を恐怖に陥れたことは記憶に新しい。

人間慣れした可愛いペットたちに囲まれた私たちは、動物が私たちの仲間であると思い込みがちだ。しかし、彼らは時に人類に鋭い牙を剥く。そんな動物の脅威を描いた作品が『ジョーズ』だ。

監督は、当時『激突!』(1971)を制作したばかりの若手監督スティーブン・スピルバーグ。原作はアメリカの作家ピーター・ベンチリーの同名小説で、脚本はベッチリーとカール・ゴットリーブが担当。主人公のマーティン・ブロディを『フレンチ・コネクション』(1971)のロイ・シャイダーが演じる。

「デカいサメが人を襲う映画」。恐らく、『ジョーズ』と聞けば、ほとんどの人がこんなイメージを抱くことだろう。確かにこのコンセプトにまったく偽りはない。しかし、本作は、パニック映画である以上に、サスペンス映画であり、ヒューマンドラマでもある。巨大ザメの惨劇はあくまで本作の一部に過ぎないのだ。

そして、本作を語る上で欠かせないのが制作の裏話だろう。海での撮影にこだわったスピルバーグは、マサチューセッツ州のヴィニヤード島で撮影を実施。しかし、現地で行われているレガッタレースや海流、海水による機械仕掛けのサメ(弁護士にちなんで「ブルース」の名付けられた)の故障などに悩まされ、撮影期間13週・製作費230万ドルの予定が最終的に約20週・800万ドルまで膨れ上がったという。

しかし、この苦労が本作に僥倖をもたらすことになる。公開当時、観客がバケーションに出てしまうサマーシーズンは閑散期とされていた。本作も当初は1974年のクリスマスシーズンに公開予定だったが、延期に次ぐ延期で結局翌年の6月公開となった。

しかし、本作は、公開後わずか78日で興行収入が北米最高記録である『ゴッドファーザー』(1972)の8150万ドルを上回り、史上初となる1億ドルを突破。最終的にアメリカ全土で6700万人が鑑賞する爆発的なヒットを記録した。

そして、本作以降、サマーシーズンにブロックバスターを公開する「夏のブロックバスター」と言われる新たな慣例が誕生し、本作の公開から50年を経た現在も続いている。撮影の延期が結果的に映画界の常識を大きく塗り替えたのだ。

なお、本作は、その後、『ジョーズ2』(ヤノット・シュワルツ監督、1978年)、『ジョーズ3』(ジョー・アルヴス監督、1983)とシリーズ化され、「サメ映画」というジャンルを確立することになる。しかし、これらの作品が「二匹目のドジョウ」であることは推して知るべしだろう。

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