無名俳優たちが醸し出すリアリティー配役の魅力
ホラー映画やスリラー映画では、役にリアリティを出すため、あえて顔の知れていないマイナーな俳優をキャスティングする場合がある。こういったスタイルは、本作のキャスティングでも踏襲されている。
まずは主人公ブロディから。この役には当初スティーブ・マックィーンやチャールトン・ヘストンの名前が挙がっていたが、スピルバーグは、ヒーロー俳優だと初めから勝つことがわかっているようなものだと批判。最終的に、パーティーでスピルバーグに売り込みをかけたロイ・シャイダーが起用されることになった。なお、彼は『フレンチ・コネクション』でアカデミー賞の助演男優賞にノミネートされており、ちょうど役者としての評価が高まりつつあったタイミングだった。
続いて、荒くれ漁師のクイント役。この役には当初リー・マーヴィンやスターリング・ヘイドンにオファーを出されていたが、両方とも断られてしまい、最終的に『スティング』(1973)が終わったばかりのロバート・ショウにオファー。当初彼は断ろうとしたが妻と秘書から出演を促され、オファーを受けたという。作中では、『スティング』の悪の親玉とは対照的に、人間味あふれる演技を披露している。
そして、海洋学者のフーパー役。この役には当初ジョン・ヴォイトやジョエル・グレイ、ピーター・ボグダノヴィッチ監督の『ラスト・ショー』(1971)で評判になったティモシー・ボトムズとジェフ・ブリッジスが候補に上がっていたという。しかし、盟友のジョージ・ルーカスが、自身の監督作である『アメリカン・グラフィティ』(1973)で主演を務めたリチャード・ドレイファスを推薦したことから、ドレイファスにオファーをすることになる。
ドレイファス自身は当初オファーを受けるつもりはなかったものの、直近に出演した作品の出来があまりにひどかったためオファーを受諾。撮影現場では、キャストやスタッフになめられがちだった撮影当時29歳のスピルバーグの良き相談相手となり、脚本では、若き海洋学者のフーパーに自分自身を投影していったという。
また本作では、サメを際立たせるため、端役やエキストラにも有名な俳優はキャスティングされていない。その代わり、エキストラにはロケ地であるマーサズ・ヴィニヤード島の島民たちが起用されているという。中でも注目は、2番目の犠牲者の母、キントナー夫人役のリー・フィエロだろう。彼女はこれまで映画の出演経験がなく、長らく島の演劇講師を務めていたが、本作では目を見張るような演技を披露している。