ホーム » 投稿 » 海外映画 » 劇場公開作品 » ウディ・アレンが魅せる大人の恋模様…オマージュを捧げた名作映画とは? 『サン・セバスチャンへ、ようこそ』考察&レビュー » Page 4

恋する大人たちによる映画のような人生

© 2020 Mediaproducción S.L.U., Gravier Productions, Inc. & Wildside S.r.L.
© 2020 Mediaproducción SLU Gravier Productions Inc Wildside SrL

モートは、年下の妻スー(ジーナ・ガーション)に同行し、サン・セバスチャン映画祭に出かける。スーは映画業界でプレス・エージェントとして働いており、彼女よりもさらに若いフランス人映画監督フィリップ(ルイ・ガレル)と仕事をしている。モートは、現代映画の旗手として評価されるフィリップとまったく馬が合わない。彼は、スーとフィリップの関係に嫉妬しているだけでなく、2人の浮気を疑っているようだ。

この3者が、1つのテーブルを囲って食事をするシーンは印象深い。モートは、自身が敬愛する過去の映画について語るも、それをほとんど無視しながら2人は会話を続ける。話すモート1人だけを映した直後に親密な2人を見せる極端なカットは、同じテーブルにも関わらず別の空間に存在しているようで、後の展開を暗示してもいる。

スーとフィリップの仲が深まっていくと、モートは胸の痛みを訴える。彼は紹介された医師ジョー・ロハス(エレナ・アナヤ)の診察を受け始めると、ニューヨークの滞在経験、映画や芸術の趣味、浮気性の画家との不幸な結婚生活など、彼女との共通点が徐々に明らかになっていく。

ジョーと話すうちに、自身の生活に潤いを感じるモート。そして彼は、自分の存在意義についての悩みを打ち明けた。

ジョーと出会うきっかけとなった胸の痛みとは別に、モートはもう1つ、内面の不安や心情の変化を反映するかのような不思議な症状に見舞われる。寝ている時だけでなく昼間にも、モートが敬愛する名作映画の夢を見るようになったのだ。

アレンは、以前『スターダスト・メモリー』(1980)でもオマージュしたフェリーニ監督『8 1/2』(1963)や『地球は女で回ってる』(1997)などでインスパイアされたベルイマン監督『野いちご』(1957)といった映画を、今回オマージュというよりは再現ともいうべき仕方で、モートの夢を表現している。

1 2 3 4 5 6
error: Content is protected !!