モートが最後に見た夢とは?
モートが最後に見た夢は、ベルイマンの『第七の封印』だ。同作のように、モートは黒装束の死神(クリストフ・ヴァルツ)とチェスをしながら対話する。
そこで死神は、何度も何度も岩を押し上げる『シーシュポスの神話』(アルベール・カミュ)を引き合いに出しつつ、人生は無意味かもしれないが空虚ではなく、仕事、家族、愛などで充実させられること、挑戦し続けることなどを説く。そして、いつまでも書けない小説ではなく映画教育に戻るように言う。
映画の引用、男女の関係性、存在についての問いなど、本作も、数十年にわたって過去のアレン作品で描かれたものが再び散りばめられているように思える。しかし、それはただの焼き直しではない。
死神は最後に、モートの死はまだ先にあり、食品に注意し内視鏡検査をするなど健康面のアドバイスをする。これはギャグではあるが非常に具体的で、80をすぎたウディ・アレンの現時点での背景をより強く反映しているのではないか。
本作は、アレンが限られた残りの人生を意識しながら作品と向き合い、映画を作り続けるという態度表明でもあるかのようだ。
(文・島晃一)
【作品情報】
タイトル:サン・セバスチャンへ、ようこそ
脚本・監督:ウディ・アレン
出演:ウォーレス・ショーン エレナ・アナヤ ジーナ・ガーション ルイ・ガレル クリストフ・ヴァルツ
2020年/92分/スペイン、アメリカ、イタリア/英語、スペイン語、スウェーデン語/カラー、モノクロ/ビスタ/原題:Rifkin’s Festival/日本語字幕:松岡葉子
提供:ロングライド、松竹 配給:ロングライド
コピーライト:© 2020 Mediaproducción S.L.U., Gravier Productions, Inc. & Wildside S.r.L.
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