ライカート的な登場人物たち
映画は、神経質なリジーが日々の雑事や周囲の気ままな人間たちにストレスを感じつつも作品制作とのバランスを取ろうと苦心する様を、過去作と比べてもユーモラスな側面を強調しながら追っていく。まず目立つのは、おそらくはライカートや常連組の共同脚本ジョン・レイモンドの友人に何人も存在するのだろう、『オールド・ジョイ』(2006)の中年ヒッピー、カートを想起させる気ままな人物たちだ。
かつては著名な陶芸家であったらしい父は、現在では居候の男女とともに、日々テレビを眺める日々を過ごしている。自らの作品に関心を持たず、隙あらば別れた妻の悪口を言おうとする父も笑いを誘うが、それ以上に可笑しいのはリジーを苛立たせる中年二人だ。父にたかる彼らはソファーを占拠し、これ以上ないほどにリラックスしきった様子で他人の台所を利用する。また彼らは、当然のようにリジーのオープニングにも押しかけ、作品には見向きもせずケータリングのチーズやワインの銘柄をギャラリーの職員に尋ねようとする。
同様に、失踪騒ぎを起こしたのちふらっと現れたオープニングでチーズを食べ続ける兄のショーン(ジョン・マガロ)も、リジーを悩ませる。精神を病み、妄想や陰謀論に取り憑かれているようにも見えるショーンを演じたマガロは、『ファースト・カウ』とはまったく毛色の異なる役柄に見事な存在感を与えており、今後もライカート作品への再登場が期待される。
ある日、ショーンを心配したリジーが自宅を訪ねると、家の中にいなかった彼は、なぜか自宅の庭を掘り返している。リジーは穴掘りをアートだと称して奇行を辞めようとしない兄の危なっかしい側面が気がかりで制作に集中できないが、母は息子を天才型のアーティストとして崇めるだけで、彼の危険な側面を明らかに軽視している。ある批評家は、リジーと彼の関係を、テリー・ツワイゴフが『クラム』(1996)で焦点を当てた漫画家ロバート・クラムとその兄チャールズの関係に重ねて捉えてもいる。※1
そのほか、アウトキャストのアンドレ3000がアンドレ・ベンジャミン名義で演じた窯の管理人エリックも、リジーとは正反対のお気楽な人柄で笑いを誘う。リジーの作品を褒めるときの口調にどこか軽さを感じさせる彼は、案の定リジーの大切な作品を焦がしてしまったときも、偶然生じた変化を肯定するだけで、特に謝罪を述べることはない。ちなみに、アンドレが演奏するフルートの音色が最終的に映画のサウンドトラックに採用されたのは、彼がロケ現場で撮影の合間に何度もフルートを演奏しており、その様子がスタッフたちの印象に残っていたからだという。