同性間の友情というテーマに異なる光を当てる
つねに何本かの過去作をイメージソースとして参照する彼女は、今回はレイモンドと共に、エレイン・メイ『おかしな求婚』(1971)、ジョナサン・デミ『Citizens Band(原題)』(1977)、クローディア・ウェイル『ガールフレンド』(1978)といった70年代のコメディ映画を意識した脚本作りを行った。※3
そのなかでライカートは、レイモンドとはじめてタッグを組んだ『オールド・ジョイ』以来、多くの映画で焦点を当ててきた同性間の友情というテーマに、これまでとは異なる角度から光を当てた。
たとえば、妻子を持ち社会の内側でなんとか生きようとする同作のマークは、若い頃の自由気ままな生活を続けようとする能天気なカートに対して、複雑な思いを抱いていた。一見すると、同様に本作のリジーもまた、先述の自由すぎる人物たちやジョーに対して、嫉妬と苛立ちの入り混じった感情を抱えているように見える。だが、これまでの作品とは異なり、リジーは同じ芸術家として、ジョーの仕事には敬意を払っている。
ライカートは、展覧会開催前の会場で一足先に彼女の新作を見たリジー=ウィリアムズが見せる表情を捉えた短い無言のショットのみで、いかに性格に許容できない面があるとしても、彼女がジョーを作家としては素直に認めているという事実を、きわめて簡潔に、かつはっきりと観客に伝えることに成功している。この単なるライバルとも友人とも異なる、同志のようなリジーとジョーの関係性を考える上では、映画の舞台や背景についても補足しておく必要があるだろう。
そもそもライカートは、これまで何度もタッグを組んできた共同脚本のレイモンドとともに、カナダのアーティスト、エミリ・カーをめぐる伝記的な作品を構想していたというが、リサーチを行うなかで彼女が同国ではあまりにも有名な存在であることを知り、美術という大枠を残しつつも実際に接点のあるオレゴンのアーティストたちを起用する形へと設定を変更した。
どこかアルベルト・ジャコメッティを思わせる部分もある、さまざまなポーズをとる女性たちを色彩豊かに描いたリジーの手がける彫刻作品はいずれも、ウィリアムズとも交流があり、長年レイモンドの友人でもあるというアーティスト、シンシア・ラーティによるものだ。また、ジョーの作品を担当したミッチェル・セグレ、客員アーティストとして登場するマリーン(ヘザー・ローレス)の作品を提供したジェシカ・ジャクソン・ハッチンズについては、ライカートがすでにポンピドゥー美術館からの依頼を受けて彼女たちの作品制作をめぐる短編をブローヴェルトとともに撮影していたことから、オファーに繋がったのだという。※4