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彫刻の制作プロセスに重ねられる映画づくり

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 最後に、過去作の犬や牛と同様に重要な動物の位置についても手短に触れておこう。映画の序盤でリジーは、餌を求める飼い猫の鳴き声が気になり作業に集中できないことを嘆きつつも、結局は猫に餌をやる。飼い犬の餌を買うために行った万引きが悲劇を生んだ『ウェンディ・アンド・ルーシー』(2008)のウィリアムズに目配せするようなこのさりげない演出は笑いを誘うが、同時に、ぼやきながらも周囲を自発的にケアしようとしてしまう彼女の性格を端的に表現してもいる。

 特にジョーと比較すると、単に女性だからと決めつけることもできない彼女のセルフケア以上に周囲の世話に意識が向いてしまう性向は、創作を行う上では損でしかないようにも映る。だが、劇中であからさまに象徴的な役割を担わされている鳩の存在は、同時にさりげなく彼女の性格と作品の繋がりを示してもいるのではないか。

 ある日の夜リジーは、自分の猫によって羽を傷つけられ飛べなくなった鳩を窓から捨てるが、翌日ジョーがその鳩を拾い看病しはじめる。だが、思いつきを行動に移すものの責任感には欠ける彼女は、次第に自らの作品づくりにしか注意が向かなくなり、鳩の世話をリジーに任せていく。すると彼女はわざわざ鳩を獣医に連れていき、指示を忠実に守って湯たんぽで鳩を温めようとする。

 この演出が、まずは自宅で自らの身体を温める熱いシャワーを浴びることすらできないリジーが鳩には湯たんぽを用意し続けるという皮肉を意図したものであることは明らかだろう。しかし、その後展覧会の準備が進むなかで気づかされるのは、彼女の彫刻作品もまた、窯のなかで熱を加えることで完成するという事実だ。

 『オールド・ジョイ』の温泉、同作や『ウェンディ・アンド・ルーシー』、『ミークス・カットオフ』(2010)における焚火、『ファースト・カウ』でミルクと生地をドーナツに変える火はいずれも、束の間とはいえ登場人物たちの間に存在する緊張感をほぐす重要な役割を担ってきた。同様に本作では、湯たんぽで温め続けられたことで再び飛び立つ鳩が、リジーとジョーのわだかまりを解きほぐす。

 ここで飛び立つ鳩は、単に起伏に乏しい物語を巧みに締めくくる象徴的な契機としてのみ優れているわけではない。鳩がリジーの彫刻作品が展示された空間で飛び立つのは、湯たんぽと窯の火が放つ熱が同じ性質を持っているからなのだ。実際に彫刻の足を外すときに作品に向かって「ごめんね」と話しかけてもいたリジーは、あたかも傷ついた鳩に接するように自らの作品を慈しんでいた。ともすると作品づくりには邪魔になっているようにも感じられたリジーが周囲に向ける配慮は、実のところ、彼女が作る彫刻の本質と結びつくものでもあったのだ。

 そう振り返ってみると、これまでになくライカート自身の自伝的な要素を孕んだ本作におけるリジーの制作過程は、細やかな調査や配慮の連続によって作品に確かなリアリティを付与していく、彼女の映画づくりのプロセスをなぞるもののようにも見えてくる。同時公開の『ファースト・カウ』もあわせて、現代映画の最前線とも言えるライカート作品が放つ熱量を、ぜひ体感してほしい。

(文・冨塚亮平)

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※1 Caleb Hammond “Kelly Reichardt & Michelle Williams on Finding the Art in Showing Up, Mike Leigh’s Influence, and What They’re Reading” The Film Stage, APR 6, 2023. https://thefilmstage.com/kelly-reichardt-michelle-williams-on-finding-the-art-in-showing-up-mike-leighs-influence-and-what-theyre-reading/
※2 Ibid.
※3 David Hudson “Kelly Reichardt and Showing UP.” THE DAILY, APR 6, 2023.https://www.criterion.com/current/posts/8112-kelly-reichardt-and-showing-up
※4 Adam Nayman “Take These Broken Wings: Kelly Reichardt on “Showing Up”” Cinema Scope, vol. 92. https://cinema-scope.com/cinema-scope-magazine/take-these-broken-wings-kelly-reichardt-on-showing-up/
※5  Ibid.

【作品情報】
題名:『ショーイング・アップ』
監督:ケリー・ライカート/脚本:ケリー・ライカート、ジョン・レイモンド/撮影:クリストファー・ブロベルト
出演:ミシェル・ウィリアムズ、ホン・チャウ、メアリーアン・プランケット、ジョン・マガロ
2022年製作/108分/G/アメリカ
原題:Showing Up
配給:U-NEXT
公式サイト

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