輝かしい未来vs悲惨な現実
現実とシームレスに描かれる誇大妄想
しかし、彼女の承認欲求はこれにとどまらない。トマスが自身に哀れみの情を向けたことに味を占めた彼女は、自身の外見を「奇病」によるものと偽り、メディアのインタビューを受けて更なる注目を集めようと画策する。
面白いのは、彼女自身の現実の出来事に、彼女が思い描く「妄想の一人歩き」がシームレスな形でインサートされることだ。
例えば中盤、彼女は、インタビューを見たインクルーシブ・モデルの事務所からスカウトされ、障がい者モデルとしてデビューを果たすことになるが、その後のシーンでスターとなった彼女にトマスが尻尾を振る場面や、彼女がテレビ番組への出演を果たす場面が描かれる。
そして、後半では、彼女がメディアのインタビュアーに自身の顔の瘢痕が違法薬物によるものであることを打ち明けてさらなる同情を集め、その結果自叙伝(本作と同じ「シック・オブ・マイセルフ」がタイトル)を出版し、ベストセラーになるという、なんとも都合のいい妄想が描かれる。
ただ、当然ながら現実はそう上手くはいかない。モデルの仕事は彼女の体調が悪化して中止になり、新聞局のインタビュアーからは嘘をついていたことを厳しく咎められる。しかし、どんなに身体がボロボロになろうとも、彼女は希望の未来に向けて一縷の望みを託し続ける。その姿はなんとも滑稽だ。