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“無常観”を表現する「小津調」の真髄とは?~映像の魅力~

映画『東京物語』の1シーン。手前は香川京子、奥に原節子
映画東京物語の1シーン手前は香川京子奥に原節子 Getty Images

カメラを固定して、ローアングルから人物を観察する「小津調」と称される撮影方法が全編に渡って貫徹されている。低い視座から安定感のある構図が構築されることによって、居間での一家団欒から列車の走行に至るまで、作品を構成するすべてのカットが1枚の画として完璧な美しさを誇る。

また、ほぼ全てのカットが50mmレンズ(標準レンズ)1本で撮影されていることも特筆すべきだろう。通常の映画では、シーンに応じて複数のレンズを頻繁に使い分けるスタイルが一般的である。特定の人物や事物を強調するためには、ライティングに変化を付けたり、移動撮影を行うといったアプローチとともに、レンズを変えて撮ることが効果的だからだ。

他方、本作では肉眼での見え方に最も近く、構図に歪みが生じない50mmレンズがほぼ全てのカットで使用されている。それによって、ドラマの進展に応じて特定の人物にフォーカスするのではなく、全ての登場人物を常に平等な存在として捉え、全ての出来事をフラットな視点で描写することに成功している。本作に底流する“無常感”、達観した印象はこのようなユニークな撮影スタイルによってもたらされているのだ。

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