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“不気味な音楽”がもたらす不思議な効果~音楽の魅力~

本作では登場人物が声を荒げたり、激しい諍いを繰り広げることは決してない。終始静謐なトーンで物語が展開するため、逆説的に日々の生活音や街の環境音といった、普段は意識の下をくぐり抜けてしまう、とるに足りない微細な音響が際立つことになる。本作を静かな環境で鑑賞する者は、襖を開閉する音や廊下を行き交う人々の足音の思いもよらぬ豊かさに気づかされるだろう。

また、小津と共同脚本の野田高梧によって、語尾の細かいニュアンスに至るまで細かく調整されたセリフは、感情を伝えるという役割を超えて、リズミカルな音響として耳を楽しませてくれる。

戦後の小津作品を多く手がける音楽家・斉藤高頼による劇伴は明るいトーンで統一されており、やや不気味な印象を与える。例えば、母・とめが亡くなった直後のシーンでも伸びやかなメロディーが流れるといった次第だ。沈鬱でセンチメンタルなムードに支配されてしまうところを、音楽の力で強引に異化することで、観客と映画との距離を一定に保たんとする高度な狙いがそこにはあるが、観る人によっては白々しく感じることもあるだろう。

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