青空のカットが挿入された理由とは?〜映像の魅力
本作の映像を担当するのは、ハリス・サヴィデス。サントの作品をはじめ、『ゲーム』や『裏切り者』などを担当してきた名カメラマンである。
そんなサヴィデスだが、本作ではリアルなティーンな日常をあくまでフラットに切り取ることに全振りしている。たとえば、学校のシーンでは、自由に演技する役者をバストショットで追従するだけで、ほぼ全てのシーン「ワンシーン・ワンカット」で撮影されている。
また、本作の画面のサイズも、一般的な映画で用いられるシネスコサイズやビスタサイズではなく、より正方形に近いスタンダードサイズで撮影されている。ここからは、観客の視野狭窄とともに、被写体を美的にではなく即物的に切り取りたいというサヴィデスの意図が垣間見える。
そんな中、異彩を放つカットが、冒頭とラストに挿入される「コマ落とし(低速度撮影」の青空の映像である。サントは、このカットの意味を明示してはいないが、本事件の惨劇が、いつもと変わらない日常の延長線上で起きたことを暗示しているように思える。そう考えると本作では、むしろ事件の顛末の方がインサートなのかもしれない。
ちなみに、コマ落としで空模様を映したカットはガス・ヴァン・サント作品に頻出するイメージであり、長編処女作『ドラッグストア・カウボーイ』(1989)でも観ることができる。
なおサヴィデスは、2012年に脳腫瘍によって55歳という若さで逝去。彼の才能を考えれば、アメリカ映画界にとってあまりに惜しい損失である。