国境を超えた時代劇の夢と情熱
エミー賞の授賞式で、真田はあえて日本語でこう語った。
「時代劇を継承して支えてきてくださったすべての方々、監督や諸先生方に、心より御礼申し上げます。あなた方から受け継いだ情熱と夢は、海を渡り、国境を越えました」
これは、日本でスピーチを見ている職人にわかりやすく伝えるためであったのだろうか。きっとそれだけではない。字幕に抵抗感を覚えるほど、世界に通用する作品は英語で作られることが当たり前のハリウッドで、ほとんど全編日本語の作品を作り上げ、その作品で大賞を獲ったという矜持を示した。いわば革命だった。
アジア人初の主演女優賞を獲ったアンナ・サワイが号泣したのも、彼女自身の栄誉のためだけではないはずだ。
時代劇を残したい——。そんな想いを口にする俳優やファンは少なくはない。それでも現実は厳しい。若い世代が疎遠になっている時代劇に、通常の10倍はかかると言われる予算を投じるスポンサーはなかなか見つからない。
そんな中、真田が何十年もの歳月を礎として実現したことは、真田が愛してきた時代劇文化の真の継承と、それを作ってきた職人たちへの真の恩返しになったのだ。
いま、日本ではインディーズ発の時代劇『侍タイムスリッパー』(2024)がSNSを中心に話題になっている。主演の山口馬木也もまた、2003年頃から京都で時代劇を学んだ俳優だ。
にわかに賑わいを見せている時代劇というジャンルだが、この一時のブームで終わらせず、好機を生かし、引き続き注目されるように願う。
そして個人が好むと好まざるとに関わらず、日本固有の文化であることの認識が広まり、故郷からも大切に扱われることを願う。
それこそが、孤軍奮闘で歴史を変えた真田広之に応える、私たち日本人の唯一の方法ではないだろうか。
(協力:佐藤懐智、阿部進之介)
(文・Nui)
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