シューベルトの「鱒」の衝撃ー音楽の魅力
本作には、音楽がほとんど使われていない。オリジナルの楽曲といえば、誘拐された進一と権藤たちが出会うシーンや、純と進一がピンクの煙を見つけた時に高らかに鳴り響くトランペットの音色くらいのものだろう。音楽を使わないというこの演出には、劇中のリアリティあふれる臨場感をそのまま伝えたいという黒澤の思惑が考えられる。
しかし、音楽が全く使われていないわけではない。例えば竹内が川沿いを通って自室に戻るシーンでは、シューベルトの「鱒」が流れる(初めはBGMとして流れ、その後竹内の家のラジオから流れる)。雑多なスラム街には似つかわしくない優雅な雰囲気が印象的なこの曲には、黒澤流のダイナミズムが垣間見える。
また、ラスト、竹内が逮捕されるシーンで流れる音楽は、イタリアの民謡『オー・ソレ・ミオ』。陽気なメロディとシリアスな映像とのコントラストがなんとも印象的だ。なお、黒澤は当初、このシーンでエルヴィス・プレスリーの「It’s Now or Never」を使用する予定だったが、楽曲の使用料が高額だったことから原曲となる『オー・ソレ・ミオ』を使用することになったという。
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