女性のユーモアを力強く描く
役者たちによる圧巻のパフォーマンスが話題の本作。筆者がスピルバーグ版との違いをもっともヴィヴィッドに感じたのは、女性のユーモアが力強く描かれているという点である。
セリーを演じたファンテイジア・バリーノは感情を繊細に表現しており、誰よりも難しいセリー役を見事に体現していた。少し展開の早い物語に観客がおいていかれることがないのは、ファンテイジアが演じるセリーの感情が、歌に込められているからである。
次に注目したいのが、ソフィアを演じたダニエル・ブルックスだ。豪快で気が強い女性という役所の彼女は、見ていてとても気持ちがよく、彼女が笑うと観ている自分まで笑顔になってしまうような、そんな不思議な魅力のある役者だと感じた。
劇中、心ない男性に体のことを笑われても身を揺らして対抗するシーンは、少しもひるまずにユーモアで跳ね返す底抜けの強さを見せる。
一方で、黒人であることから境遇に負けてしまい、それまでの勢いが失われたように涙するシーンでは深い悲しみが伝わる。その後、彼女が再び笑顔を取り戻す場面は、逆境を跳ね返す力に満ちており、観ていて思わず涙がこぼれた。
実写映画『リトル・マーメイド』主演をつとめたハリー・ベイリーも、持ち前のキュートさと美声で映画の中に花が咲いたような可憐な存在感を発揮。姉妹が見つめ合い「us have one heart(心は一つ)」とお互いの存在を心に刻むシーンのまっすぐな眼差しに惹きつけられる。
麦わら帽子をかぶり、スカートをひらひらさせながら踊り歌うミュージカルシーンも、力強さと透き通るような声の美しさを同時に感じる。また、スピルバーグ版でセリーを演じたウーピー・ゴールドバークが、助産師として出演。スピルバーグ版へのオマージュにも注目だ。