男性視点によるステレオタイプへの抵抗
「世界最高峰の才能が集結した」と謳う本作。この表現は決して大げさではない。
ミュージカル調にアレンジされた本作は、リメイク版ならではの改変とカラフルな世界観、役者やダンサーたちの圧巻のパフォーマンス、全てにおいてエンターテイメントが追求されている。重厚な物語とシリアスな雰囲気が強めのスピルバーグ版と比べると、性暴力に関する描写などにおいて、本作の表現は控えめだが、その分歌や役者の表現力によって、逆境を跳ね返す女性の強さが際立つ。
劇中、女性たちは素敵な“スカート”を見事に穿きこなしている。それは、数々のミュージカルシーンで、画面を華やかに彩ることに貢献している。しかし、興味深いことにミスターの元を去ったセリーが生業としたのは、スカートではなくズボンづくりだ。彼女の選択には「女性はスカートを穿くものだ」という男性視点によるレッテルへの抵抗が読み取れる。本作が描くスカートとズボンのイメージからは、女性らしさ、男性らしさをめぐるステレオタイプを乗り越えようとする作り手の意志が感じられた。
細部の描写がメッセージを集約しているという点では、セリーが行う手作業も重要だ。自分を虐げる者に立ち向かえなかったセリーが、母に教えられた裁縫で自分の道を切り開く姿は、タイトルである“カラーパープル”「日常に存在するのに気づかない美しさ」にも目を向けることを意味している。
まさか自分の店を持つようになるとは思いもしなかったセリーだが、彼女には“裁縫”があった。セリーにとって裁縫は紫色の花だったのではないだろうか。
本作は、女性だけでなくあらゆる人に観てほしい。「自分には何もない」「自分は不幸だ」「もう少し恵まれていれば」とつい無い物ねだりをしてしまうのが人間だ。
しかし、誰しも気づかないだけで、いつもどこかに紫色はある。人生の喜びを教えてくれる本作に、胸を打たれるだろう。
(文・野原まりこ)
【作品概要】
製作:オプラ・ウィンフリー、スティーブン・スピルバーグ、スコット・サンダース、クインシー・ジョーンズ
監督:ブリッツ・バザウーレ
原作:アリス・ウォーカー
出演:ファンテイジア・バリーノ、タラジ・P・ヘンソン、ダニエル・ブルックス、コールマン・ドミンゴ、コーリー・ホーキンズ、H.E.R.、ハリー・ベイリー他
原題:Color Purple
配給:ワーナー・ブラザース映画
上映時間:141分
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