父をただ模倣するのではなく独自のスタイルを模索しようとする野心作
このように序盤の展開を辿るだけで明らかなように、イシャナ・ナイト・シャマランが若干24歳で完成させた初監督長編『ザ・ウォッチャーズ』を、父M・ナイト・シャマランからの影響を無視して観ることは不可能だ。
周知のように、怪物をめぐるスリラー/ホラーというジャンルをはじめ、密室という舞台、謎めいたルールといった要素はいずれも、本作でプロデューサーを務めた父親が過去作で好んで取り上げてきたものである。
また、いまや妹と比べるとすっかり影が薄くなった元天才子役ダコタ・ファニングを主演に迎える、それだけで思わずにニヤリとさせられる絶妙なキャスティングのセンスや、決して短くはない原作を大胆に切り詰めて100分強にまとめるたしかな編集の才といった美点にしても、どこか新作では懐かしのジョシュ・ハートネットを主演に起用し、大半の監督作を100分台の尺に収めてきた父を彷彿とさせるものだ。
だが、観客がこれらの類似に気がつくことは、明らかにイシャナにとっては織り込み済みである。たとえばスティーヴン・キングの息子ジョー・ヒルなどとも異なり、イシャナは父のセンスが良いとは言い難いミドルネームまでをも引き継ぎ、自作をめぐるインタビューでは毎回嬉々として父についての質問に答え、果ては父親と共同で映画の宣伝イベントを開催してもきた。
親バカを隠す気が微塵もない父と同様に、イシャナは父の映画からの影響を全く隠そうとはしない。その態度と父譲りの楽天性が気に障ったのか、それとも人種やジェンダーに関わる偏見ゆえだろうか、下積みを経ない若手女性監督が完成させた本作には「縁故主義(nepotism)」を指摘する多数のネガティヴなレビューが寄せられ、大手レビューサイトの評価もRotten Tomatoesが32%、Metacriticが46点と、決して高いとはいえないスコアにとどまっている。
だが、これらレビューサイトのスコアにしても、たとえば父の低迷期とされる『ヴィレッジ』(2004)から『アフターアース』(2013)に至る5本(余談だが、父の監督作で最も評価の低い『エアベンダー』(2010)はRotten Tomatoesが5%、Metacriticが20点と、もはや何点満点かわからなくなるような点数を記録している)と比べれば総じて高いものだ。
たしかに、特に撮影と連動したサスペンス演出があまり機能していないことや、それとも関わる中盤のやや間延びする展開など、この映画にはところどころ荒削りな側面があることは否めない。しかしながら本作は、20代前半の若手監督のデビュー作として観れば、十分に今後に期待が持てる部類に入るものと感じられる。
そしてなにより『ザ・ウォッチャーズ』からは、父をただ模倣するのではなく独自のスタイルを模索しようとするイシャナの野心がありありと伝わってくる。以下では、原作との異同や具体的な展開にも言及しつつ、いくつかの視点から本作とイシャナの擁護を試みたい。