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繰り返されるフレーズの反復

©2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED
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 映画全体に関わるもっとも重要な変更点は、なんといっても模倣のテーマを全面化させたことだ。映画は序盤から執拗に、ミナにとって模倣がいかに重要な問題なのかを原作にはない形で繰り返し強調する。まず注目したいのは、ミナが森に向かう前夜のシークエンスである。

 オウムを受け取って帰宅したミナは、一人暮らしの自宅でオウムに向けて15年前に母が死んだことを明かす。真似をしないように見えたオウムは、ミナの発言のうち「死なないようにね (try not to die)」という箇所だけをコミカルに繰り返す。その後劇中を通じて繰り返されるこのフレーズの反復は、ウォッチャーズ出現後には全く別の不気味さを伴ったものとして響く。

 一方でシャワーを浴びたミナは、ウィッグをかぶり、オウムを置いて原作にも登場する夜のバーへと繰り出す。原作では「安全な場所」(22)であるパブで見知らぬ他人たちの人間観察とスケッチに励んでいた(18)ミナは、映画では偽名を名乗り、「白鳥の湖」を踊りに来たバレエダンサーとして、隣にやって来た見知らぬ男性と談笑する。

 翌日、森へと出発する直前の車内では、かつての母の死を受け入れられず、自分に自信を持てぬままのミナが、現在も日常的に他人のフリをする時間を持つことで日々をやり過ごしているらしいことが、聞く耳を持たないオウムに向けて、それとなく伝えられる。彼女は、「本当の自分はおそらく正しくないのだ」と語る。

 ミナが母を早くに亡くし、家族を持ち社会の規範に沿った生活を送ってきた姉ルーシーと対照的な人生を送ってきたこと、日常的に連絡を取り合う親友もおらず、自分に唯一世話を焼く姉に対しても劣等感を抱きつつ反発してきたことは、いずれも原作から引き継がれた設定である。

 加えて原作では、母を亡くした父が酒浸りとなり、しばしばミナとの電話中に泣き出し、彼女と話したことを思い出すことすらできないほど酔い潰れていることが示唆される(67)。しかし、母の死因については特に触れられない。

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