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原作の登場人物をほとんどカット…タイトルに張り巡らされた二重三重の意味とは? 映画『関心領域』徹底考察&評価レビュー

text by 荻野洋一

第76回カンヌ国際映画祭でグランプリに輝き、第96回アカデミー賞で国際長編映画賞・音響賞の2部門を受賞した映画『関心領域』が公開中だ。アウシュヴィッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を舞台にした本作の魅力に迫るレビューをお届けする。(文:荻野洋一)【あらすじ キャスト 考察 解説 評価】

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【著者プロフィール:荻野洋一】

映画評論家/番組等の構成演出。早稲田大学政経学部卒。「カイエ・デュ・シネマ」日本版で評論デビュー。「キネマ旬報」「リアルサウンド」「現代ビジネス」「NOBODY」「boidマガジン」「映画芸術」などの媒体で映画評を寄稿する。今年夏ごろに初の単著『ばらばらとなりし花びらの欠片に捧ぐ(仮題)』(リトルモア刊)を上梓する予定で、500ページを超える大冊となる。

紛れもなく“現在”見られるべき映画

関心領域
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 スカーレット・ヨハンソンが人間を捕食する蠱惑(こわく)的なエイリアンを演じたSFホラー『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(2013)が高い評価を得たにもかかわらず、ジョナサン・グレイザー監督はそのあと映画を1本も発表しなかった。この10年ものあいだ、彼はマーティン・エイミスの小説『関心領域(The Zone of Interest)』(邦訳 早川書房)の映画化にむけて、詳細なリサーチと企画プランの練り上げに多大な時間を費やしていたのである。

 苦労の末に完成した映画『関心領域』は、2023年カンヌ国際映画祭でグランプリ(第2等に相当)を受賞し、2024年春のアカデミー賞では国際長編映画賞&音響賞のW受賞を果たしたが、この受賞ラッシュは彼の苦労を少しはねぎらうことになったのだろうか?

 アワードの審査結果によって、最も栄光に包まれたのはむしろ主演女優のザンドラ・ヒュラーである。彼女は本作ばかりでなく、パルムドール(最高賞)を受賞した『落下の解剖学』の主演もつとめており、2023年のカンヌを彼女のための大会にしてしまった。

 ジョナサン・グレイザー監督を最も慰めているのは、この『関心領域』という作品それじたいの規格外の出来ぐあいによってであろう。第二次世界大戦中のアウシュヴィッツ強制収容所を描いた歴史ドラマでありつつ、“歴史”で終わらせていない。“現在”の映画として、観客を意識させるよう働きかける仕組みになっている。

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