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「雑味」の旧作版、「すっきりした味わい」の新作版

© 2024 CINEFRANCE STUDIOS - KADOKAWA CORPORATION - TARANTULA
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 とある工場の廃墟。ジャーナリストのアルベール・バシュレ(ダミアン・ボナール)と心療内科医の新島小夜子(柴咲コウ)が、ある男の手足に枷をはめている。その男とは、ティボー・ラヴァル(マチュー・アマルリック) 。ミナール財団の元会計係だった男だ。

 アルベールは、ラヴァルを壁につなぐと、殺害された自身の愛娘のホームビデオを彼に見せながら彼を問い詰める。しかし彼は一向に口を割らない。それどころか、彼はもう一人の容疑者の名前を口にする。財団の黒幕であるピエール・ゲラン(グレゴワール・コラン)の名をー。

 終わりなき復讐譚。本作の根底をなすこの物語は26年前に制作された旧作版とほぼ同じだ。違う点は、旧作版ではアルベールが日本人に、新島小夜子が男性になっている点だろう。

 旧作版でアルベールにあたる人物は、香川照之演じる宮下辰雄だ。小心者である彼は初めのうちは復讐に及び腰なものの、次第に自らの暴力性に心酔し手がつけられなくなっていく。この描写は、確固たる信念のもと復讐を遂げようとするアルベールの描写とは大きく異なっている。

 旧作版で新島小夜子にあたる人物は新島龍巳。演じるのは、Vシネの帝王とうたわれた哀川翔だ。塾の数学講師と殺し屋の二足のわらじを履く新島は、どこか超然とした空気感を纏っており、小心者の宮下をみるみるうちに修羅の道に引き摺り込んでいく。

 また、旧作版では、新島がドラマ『ガリレオ』に登場する湯川学(福山雅治)よろしく路上に数式を書き散らすシーンなど、初期黒沢作品らしい本筋とは関係のない不条理でシュールなシーンがあちこちに散りばめられていた。一方、新作版では、旧作版に見られた「雑味」が抜け落ち、よりすっきりした味わいになっている。よく言えば洗練された作品に、悪く言えば味気ない作品になっているというわけだ。

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