スコットランドの負の遺産―脚本の魅力
「こんな国 クソッたれだ。最低な国民。人間のカスだ。みすぼらしくて卑屈でミジメで史上最低のクズだ」
「みんなはイギリスをバカにするが、そのイギリスの領土だ。何の価値もない国を占領するような落ちぶれた国の子分だ」
トミーから、「この国を誇れ」と言われたレントンは、スコットランドの大自然を前に、このように吐き捨てる。彼のこの言葉には、イングランドから長きにわたり煮え湯を飲まされ続けてきたスコットランドのねじれたナショナリズムが横たわっている。
グレートブリテン島の北部に位置するスコットランドには、元々「ピクト人」と呼ばれる部族が暮らしていた。しかし、ローマ帝国の建国以来、アングロサクソン人をはじめとする多民族がたびたび侵入。17世紀以降はイングランドの君主によって統治されることが通例となり、1707年には正式にイングランドに併合されることになる。
その後、スコットランドは、製造業が中心になり、産業革命では「世界の工場」たる中核を担うものの、1979年の第二次オイルショックでは、しわ寄せが集中し、失業率が増加。時の首相マーガレット・サッチャーが福祉国家から新自由主義への大転換を促すことでGDPは回復したものの、職を失った彼らはその恩恵にあずかることができなかった。
つまり、レントンが語った冒頭の言葉は、こういったどん底のスコットランドの現状を如実に表している。要するに彼らは人生の選択肢がないのだ。だからドラッグを常用し、現実から逃避を図ろうとする。
本作の監督であるダニー・ボイルは、『スラムドッグ$ミリオネア』でインドのスラム街に生まれ育った青年の一発逆転を描いている。インドといえば、かつてイギリスの植民地だった国だ。
スコットランド同様、かつてイングランドの植民地だったアイルランドに生まれたダニー。彼がフィルムに刻むのは、かつて世界の4分の1を版図に収めた大英帝国の負の遺産なのかもしれない。