キム・ミニ期からイ・へヨン期への移行と「画面外」の意義
本作『WALK UP』(2022)について考える上ではまず、前年からキム・ミニの単独主演作品が撮られなくなったことが重要だろう。『イントロダクション』(2021)で脇役を演じた彼女は、続く同年の『あなたの顔の前に』には出演していない。
一方で、同作でホン・サンス映画に初主演した女優イ・へヨンは、本作の1つ前に撮られた『小説家の映画』(2022)でもキムとともに主演を務め、もはやキムは出演していない本作にも引き続き登場している。2015年の『正しい日 間違えた日』での初タッグから7年にわたって続いてきたキム・ミニ期が終わり、代わってイ・へヨン期が始まった、ということであれば話は簡単なのだが、事態はそれほど単純ではない。
韓国では本人の監督した映画以上に広く知られている彼とキム・ミニとの不倫関係はおそらくは終わっておらず、彼女は自身が女優として出演していない近作にも、いずれもスタッフとしてクレジットされている。たとえば、『あなたの顔の前に』と本作ではプロダクションマネージャーおよびスチール写真を担当した彼女は、画面には映っていないものの、撮影現場には同席している。
対して、まるでキムがカメラの前に立つ時間が短くなることと呼応するように、『イントロダクション』を境にホンは自ら撮影をも担当するようになる。コロナ禍の影響もあったのか、彼は21年以降の映画では監督、脚本に加え撮影、プロデュース、編集、音楽までを兼任し、ますます小規模なユニットでの映画制作を行うようになった。
このようにカメラの手前側に位置する人間がますます限定されていくなかで、近作では「画面外」のはらむ意義がこれまでとは異なる形で追求されているように見えるのだ。