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摩訶不思議な映画体験の核心にあるもの

『夜の外側 イタリアを 震撼させた55日間』
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『夜の外側』は6話構成になっている。第1話はアルド・モーロ元首相(ファブリツィオ・ジフーニ)が誘拐されるまでをモーロ本人の視点から描く。物語の発端だから、これは当然だ。しかし興味深いのは2003年の『夜よ、こんにちは』ではなんと、誘拐現場そのものが描かれていなかったのである。

 あの作品の冒頭では、アパートメントで留守番をする女性テロリストが誘拐計画の成功をニュースで知って、帰ってくる仲間たちを迎え入れるところから物語が始まっていた。今回の『夜の外側』ではきちんと壮絶な銃撃戦が描かれ、ビッグバンとして提示される。

 以下、『夜の外側』第2話は、モーロを父のように慕う内務大臣の側から事件捜査の行きづまりを描き、第3話はローマ教皇パウロ6世の側から、第4話は『夜よ、こんにちは』の主人公とよく似た女性テロリストの側から、第5話はモーロ夫人の側から描かれ、第6話は事件の結末が描かれる。モーロ夫人役を大スターのマルゲリータ・ブイが演じていることからも察せられるように、このサーガの真の主人公はモーロ夫人なのであろう。それほどまでに第5話には見応えがある。

『夜の外側』は『夜よ、こんにちは』を数倍のスケールで膨張させたリメイクであるわけだが、さらに『夜の外側』の各話が第1話の視点をスライドさせたリメイクのそのまたリメイクとして複製されていくという構造をなし、しかもらせん階段のように事件をなんども巡りながら、観客はいつのまにか、ことの核心から遠ざけられていく。この摩訶不思議な映画体験はじつにスリリングなものだ。さまざまな出来事がダイナミックに重なり、大河ドラマのようなスケールに膨張する一方で、肝心の部分がぴたりと動きを止めてしまうのである。

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