劇中、最も親密な対面シーン
この映画では、真に果たされるべきカットバックが、わけもわからず遠ざけられている。夫婦どうしはとうとう夜のベッドで背中を向け合うばかりだし、黒幕は画面内から逃げてばかりいる。
この映画で最も親密な対面シーンは、アルド・モーロと、政敵であるイタリア共産党のエンリコ・ベルリングェル書記長(ロレンツォ・ジョイエッリ)が停車した車中で密会するシーンであり、要件は、連立与党に参画する共産党からはひとりも新内閣の閣僚を輩出させることができません、というシビアな極秘交渉なのだが、このふたりはどこか心の芯の高貴な部分で通じ合っている。
車外でもモーロの側近とベルリングェルの側近がスポーツの話題で和気あいあいと立ち話している。筆者はこのシーンが大好きだ。このナイトシーンのなんとイタリア的であることか。このシーンをもっと長く撮ってほしかったし、ベルリングェル書記長をもっと作品内にフィーチャーしてほしかった。
なお、ただの豆知識であるが、モーロを父のように慕うあまり、捜査の停滞につれて精神的に病んでいく内務大臣コッシーガ(ファウスト・ルッソ・アレジ)と、ベルリングェル共産党書記長はどちらもサルデーニャ島の貴族階級出身で、親戚どうしだとのことである。映画内ではそんなことはまったく触れられてはいなかったが、イタリア国内ではこの血縁関係はことさら強調して描くほどでもない、よく知られた事実なのであろう。