空っぽな棺桶にみる映画『夜の外側』の真骨頂
共産党書記長との面会が和やかであるのに対して、第1話と第6話における、病室で横たわるモーロ元首相と、同僚であるはずのキリスト教民主党の執行部3人の面会シーンは、不倶戴天の敵どうしの緊張感がただよっている。
この映画においてモーロ元首相の運命が最終的にどうなってしまうかは、じっさいに劇場で確かめていただきたいけれども、第6話のエンディングで挿入される当時のニュース映像についてだけ少し言及して、本稿を閉じたい。
信者から集めた莫大な身代金を使いそこねたローマ教皇パウロ 6世はアルド・モーロの葬儀に参加したが、肝心の遺体がこの葬儀には欠落している。葬儀を主催する与党キリスト教民主党の執行部に対する不信感を募らせたエレオノーラ・モーロ夫人以下、モーロ家の人々は一族の墓所で独自の弔いを決行し、夫であり父である遺骨を安置する。
こうした葬儀のあからさまな二重性こそ、本作の真骨頂だろう。教皇まで参加してミサがおこなわれた国民的行事で、肝心かなめの棺桶が空っぽなのである。まるで大島渚監督の傑作『儀式』(1971)において、花嫁の姿がないのにごく自然に挙行されてしまう結婚式のようではないか。
対面すべき人と人が対面せず、流通すべきイメージが流通せず、使われるべき金が使われず、その代わりにあらゆる人や物がうごめき、駆けずり回り、運命の歯車が悪魔的な速度でぐるりと回っている。
私たち観客は『夜の外側 イタリアを震撼させた55日間』にいったい何を見ているのだろうか? ショッキングな事件の実相に迫りえたのか? フィクションもまぶした壮大なオペラを鑑賞したのか? それとも…
(文・荻野洋一)
映画『夜の外側 イタリアを震撼させた55日間』8/9(金)
Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほか全国順次ロードショー
【作品概要】
監督・原案・脚本:マルコ・ベロッキオ
原案:ジョヴァンニ・ビアンコーニ、ニコラ・ルズアルディ 原案・脚本:ステファノ・
ビセス 脚本:ルドヴィカ・ランポルディ、ダヴィデ・セリーノ 撮影監督:フランチェ
スコ・ディ・ジャコモ 編集:フランチェスカ・カルヴェッリ 美術:アンドレア・カスト
リーナ 衣装:ダリア・カルヴェッリ 録音:ガエターノ・カリート 音楽:ファビオ・マ
ッシモ・カポグロッソ 製作:ロレンツォ・ミエーリ、シモーネ・ガットーニ
出演:ファブリツィオ・ジフーニ、マルゲリータ・ブイ、トニ・セルヴィッロ、ファウ
スト・ルッソ・アレジ、ダニエーラ・マッラ
2022年/イタリア/イタリア語・英語/340分/カラー/1.85:1/5.1ch
原題:Esterno notte 英題:Exterior, Night 字幕翻訳:岡本太郎 映倫:区分 G
配給:ザジフィルムズ
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公式 X:@yorusoto2024
ザジフィルムズ35周年記念作品