改変が天才的で原作超え…最も成功した「長編小説の映画化」(2)リアルすぎて息を呑む…最高だった主題歌は?
長編小説はしばしば映画の原作になるが、長大な物語をおよそ2時間の尺に収めるためには、知恵がいる。映画化にあたり、成功の鍵を握るのは、そうした工夫にあると言っても過言ではないだろう。そこで今回は、長編小説の改変に成功した実写化映画を5本セレクトして紹介する。第2回。(文・ばやし)
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映像作品ならではの改変が素晴らしかった
『ハケンアニメ!』(2022年)
監督:吉野耕平
脚本:政池洋佑
原作:辻村深月
出演:吉岡里帆、中村倫也、柄本佑、尾野真千子、工藤阿須加、小野花梨、高野麻里佳、前野朋哉、矢柴俊博、新谷真弓、松角洋平、水間ロン、前原滉、みのすけ、古館寛治、徳井優、六角精児
【作品内容】
地方公務員からアニメ制作会社・トウケイ動画へと飛び込んだ新人監督の斎藤瞳(吉岡里帆)は、クセ者の敏腕プロデューサー・行城(柄本佑)らとともに、伝説の天才アニメ監督・王子千春(中村倫也)を擁するスタジオえっじと、アニメ業界の覇権の座をかけて争いを繰り広げていく。
【注目ポイント】
辻村深月の長編小説のなかでも、映像特有の表現を上手に取り入れながら、原作の良さを損なわずに映画化に成功したのが、2022年に公開された『ハケンアニメ!』だ。吉野耕平監督によって映像化された本作は、アニメーション制作現場で奮闘する人々の物語であることもあって、作品が完成するまでの膨大な行程や関わるスタッフの多さなど、映像制作のリアルが丁寧に描写されている。
今年公開された『傲慢と善浪』を始めとする辻村深月作品は長編が多く、『ハケンアニメ!』に関しても原作は600ページ近い重厚なストーリーに加えて、複数の主人公の視点から物語が進む「群像劇」のスタイル。すべてのエピソードを盛り込むのは至難の技だった。
そのため映画では原作の3つある章のうち、第2章のエピソードーー新人映画監督・斉藤瞳をメインに添えて、覇権の座を争うライバルである王子千春との対決ーーにフォーカスしている。
舌戦を繰り広げたトークショーの場面や、スタジオえっじのプロデューサー・有科(尾野真千子)と斎藤監督の銭湯での会話は映画のオリジナルシーンであり、青の『運命戦線リデルライト』とピンクの『サウンドバック』で色分けされたリアルタイム感想や視聴率チャートを用いた演出は、映像作品ならではの魅せ方だった。
ちなみに、原作では斉藤監督の好物はミスドのポンデリング。しかし、映画ではコージーコーナーのエクレアに変更されており、主題歌を担当したジェニーハイの「エクレール」は、この改変によって生まれた楽曲とも言えるだろう。
(文・ばやし)
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【了】