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『古畑任三郎』史上最高の神回は? 全43話で最も面白い回(5)トリックが天才的すぎる…哀れな結末とは?

text by 編集部

三谷幸喜が脚本を手掛けた刑事ドラマ『古畑任三郎』が、放送開始30周年を記念してフジテレビ系列で一挙放送される。そこで今回は、これまで放送された全43話の中から、珠玉の神回を5つ紹介。古畑が対峙した最強の犯人や事件が起きない異色回など、ドラマの魅力を余すことなく紹介する。第5回。(文・編集部)

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古畑史上最も哀れな犯人の哀しき顛末

「笑うカンガルー」VS二本松晋(陣内孝則)野田ひかる(水野真紀)

水野真紀【Getty Images】
野田ひかる役の水野真紀【Getty Images】

放送:1995年4月12日
演出:松田秀知
出演:田村正和、陣内孝則、水野真紀、西村雅彦、田口浩正

【作品内容】

 数学者・二本松晋(陣内孝則)は、オーストラリアのホテルに滞在中、相棒の数学者・野田茂男(田口浩正)の妻・ひかる(水野真紀)から「襲ってきた野田を突き飛ばしたら頭を打って死んでしまった」と電話を受ける。二本松は、旅先で出会った古畑任三郎(田村正和)を利用してアリバイを作り、ひかるの犯罪をかばおうとするが…。

【注目ポイント】

『古畑任三郎』には、「古畑任三郎VS SMAP」以外にも、犯人が複数人登場する物語がある。

 有名なところでは、第3シーズン第3話の「灰色の村(原題:古畑、風邪を引く)」が挙げられるだろう。この物語は、とある山村を訪れた古畑が村ぐるみで隠蔽された殺人事件の真相を追うというもので、ゲストスターには、村長役の松村達雄と助役の岡八郎の2名がクレジットされていた。

 また、2004年放送の『古畑任三郎ファイナル』の第一夜として放送された「今、甦る死」は、ゲストスターに藤原竜也と石坂浩二の2名がクレジットされ、藤原竜也演じる堀部音弥の犯した殺人が実は石坂浩二演じる天馬恭介の壮大な犯罪計画の一部だったという「二重底」の物語構造になっていた。

 その点、陣内孝則と水野真紀をゲストスターに迎えたスペシャル「笑うカンガルー」は、複数犯のいわば原型となる作品といえるだろう。第1シーズンの終了後に放送された本話は、全編オーストラリアロケという点からも、第1シーズンの集大成として制作されたことがうかがいしれる。

 あらすじからも分かるように、本作は「事後従犯」(犯行後に犯人を匿う行為)をテーマとした物語だ。しかし、三谷幸喜ともあろう人物が、単なる事後従犯ですませるわけがない。実際、展開は、被害者が途中で息を吹き返したことから、混迷を極めていく。

 まずは物語をおさらいしよう。登場人物は、数学者の二本松晋とその相棒の野田茂男、そして、野田の妻で二本松の不倫相手でもあったひかるだ。

 とある賞の授賞式に参加するため、野田夫妻とホテルに滞在していた二本松は、ある夜ひかるから、茂男を殺してしまった、という電話を受ける。ひかるによると、突然襲いかかってきた茂男を突き飛ばしたところ、動かなくなってしまったのだという。

 ひかるの部屋に駆けつけた二本松は、早速茂男の口に酒と自家製の塩辛を放り込み、泥酔して階段から転落死したと偽装する。しかし、その後、階段に様子を見に行った二本松は、茂男の死体がなくなっていることに気づく。

 戦々恐々とする二本松。もしや…と思い、恐る恐る野田の部屋を覗いてみると、そこには、打撲した頭部にコールドスプレーを吹きかける、パンツ姿の茂男の姿があった。

 さて、ここまでなら、ほっと胸を撫で下ろして終わったかもしれない。しかし、ここから物語は急展開を迎える。

 息を吹き返した茂男は、壁に何やら計算式を書いていた。二本松は、一目見てその式が数学界で長年にわたって謎とされてきた「ファルコンの定理」の証明であることに気づく。

 喜びながら、賞金を山分けしよう、という二本松。これに対し、茂男は、手柄は俺のもんだ、と言い、コンビ解消を持ち掛ける。そしてカッとなった二本松は、野田の頭に灰皿を振り下ろし、今度は本当に殺してしまうー。

 その後、二本松は、酔って階段から落ちた、というていで、全裸の茂男の死体を再び階段下に横たえる(野田茂男役の田口浩正は、おそらく日本ドラマ史上稀に見る気の毒な被害者役だろう)。しかし、彼の前に、懸賞で旅行に来ていた古畑が立ちはだかるー。

 本作の注目ポイントは、なんといっても二本松のキャラクターだろう。「事後従犯」という立場を利用し、自身に身の危険が及ぶと、ひかるに罪をなすりつけたり証拠をでっち上げたりと、利己的に立ち振る舞う。しかも、解決編では、利己心から犯した自身の犯罪が、そもそも無意味なものだったことが明らかになる。

 しかし、この物語の真の主人公は、実は二本松ではない。第一の事件の犯人である野田ひかるだ。

 茂男が警察に連行された後、古畑は、息を吹き返した後に、茂男がケースにしまったメガネを取り出し、突き飛ばしただけでこんな壊れ方はしない、と言う。つまりひかるには、はじめから明確な殺意があったのだ。

 そして、彼女の殺意には、当の二本松も気づいていた。現に二本松は別れ際、彼女の言葉に次のように返答する。

「結局あなたは、いつも自分のことしか考えてなかった」
「…誰だってそうじゃないか?」

 一説によると、本作のタイトルである「笑うカンガルー」とは、「男運のない女性」を意味するオーストラリアのことわざが語源であるという。

「カンガルーに笑われる女性」であったはずのひかる。彼女もまた、二本松同様、利己的な殺人者であったのだ。

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【了】

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