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改変が天才的で原作超え…最も成功した「長編小説の映画化」(5)静かな衝撃作…結末に関わる重要な改変とは?

text by ばやし

長編小説はしばしば映画の原作になるが、長大な物語をおよそ2時間の尺に収めるためには、知恵がいる。映画化にあたり、成功の鍵を握るのは、そうした工夫にあると言っても過言ではないだろう。そこで今回は、長編小説の改変に成功した実写化映画を5本セレクトして紹介する。第5回。(文・ばやし)

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人物の心理描写に影響を与える素晴らしい改変

『正欲』(2023年)

稲垣吾郎
稲垣吾郎【Getty Images】

監督:岸善幸
脚本:港岳彦
原作:朝井リョウ
出演:稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香、山田真歩、宇野祥平、渡辺大知、徳永えり、岩瀬亮、坂東希、山本浩司

【作品内容】

 息子が不登校になり、妻と教育方針をめぐって対立する検事の寺井啓喜(稲垣吾郎)。広島のショッピングモールで販売員として働く桐生夏月(新垣結衣)は、中学のときに転校していった佐々木佳道(磯村勇斗)が地元に戻ってきたことを知る。

 多様な性や価値観を抱える彼らの人生は、令和へのカウントダウンとともに交錯していく。

【注目ポイント】

 ダイバーシティ、ルッキズム、性的嗜好、YouTuber…。近年、メディアで盛んに取りあげられるようになった言葉たちが、この作品にはちりばめられている。

 そして、著者である朝井リョウが描く『正欲』はそんな世の中に対して、思いもよらない方向から一石を投じた。彼が投げた問いかけは、多くの人々の心に波紋を起こしながら、今まで持っていた価値観を根底から揺さぶっていく。

 さまざまな立場から多様性や繋がりがもたらす光と闇を描く物語は、原作では多くの登場人物の視点で描かれている。しかし、映画では主に検事の寺井啓喜、世間とは異なる価値観を持つ桐生夏月、佐々木佳道の3人のエピソードを軸に進んでいく。

 そして、本作品の映画化に際して、もっとも大きな改変点と言えるのが、寺井と夏月の交錯だ。小説では終盤まで出会うことのなかったふたりが、映画では物語の中盤でお互い街を歩いているときに偶然、遭遇する場面が描かれている。

 ラストに向けて、ふたりの大きな隔たりを強調するために新たに加えられたであろうシーンは、彼らの生き様や世間での立ち位置を色濃く映し出しており、観ている人にとっても印象深い場面となっていた。

(文・ばやし)

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【了】

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