日本映画史上最高のミステリーは? 驚きの結末の邦画(1)死んだのは弟じゃない…息が詰まるような展開の行方は
人は、謎が好きだ。ミステリー小説や映画を好む人も少なくないだろう。そこに絡んでくる秘密やトリック、伏線に騙され、欺かれ、この上ないワクワクとドキドキを味わうことができる。そこで今回は、史上最高の邦画ミステリーを5本セレクトしてご紹介する。(文・シモ)※この記事では物語の結末に触れています。
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『ある男』(2022)
監督:石川慶
脚本:向井康介
原作:平野啓一郎
出演:妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝、清野菜名、眞島秀和、仲野太賀、真木よう子、柄本明
【作品情報】
弁護士の城戸(妻夫木聡)は、過去のクライアント里枝(安藤サクラ)から奇妙な調査を頼まれる。それは、不慮の事故で亡くなった里枝の再婚相手「大祐」(窪田正孝)の身元調査である。
ある日、大祐の法要が行われ、そこで驚愕の事実が発覚する。訪れた兄の恭一(眞島秀和)が、予想外の言葉を発したのだ。「この遺影、大祐じゃないです…」
大祐と名乗っていた男は、いったい何者なのか?
【注目ポイント】
本作は芥川賞作家・平野啓一郎の小説を映画化したヒューマンミステリーだ。
「死んだのはXで戸籍上の谷口大祐は、死んでいない」
弁護士・城戸(妻夫木聡)が謎の真相を追い求める…というストーリー展開となっている。
本作では、Xの死をきっかけに明らかになる事実と、それを受け止められない“残された人々”の戸惑いと苦悩が描かれる。
同時に、Xの忌まわしい過去も色濃く映し出されていく。それは、彼が殺人の罪で投獄された死刑囚の息子であるということ。
何の罪もないのに一生背負わされる運命に苦しみ、過去を拭い去りたいXは、自分の名前を母親の性に変え、さらに別人の戸籍を使い、最終的に谷口大祐として3度目の人生を歩む決断をした、というわけだ。
過去をまっさらに消し去って新たな人生を歩んでいきたい人間と、それを許さない世間の目が鋭く描き出される。我々は、現実の冷たさをまざまざと突きつけられるのだ。また、劇中では、城戸が周囲の人間から在日3世という出自を暗に批判される描写がある。これも、社会の偏屈ぶりを浮き彫りにする演出の一端だろう。
また、主演の妻夫木聡をはじめ、安藤サクラ、窪田正孝、仲野太賀など、当代屈指の名優が脇を固めており、息が詰まるような緊張感を醸成することに貢献している。
本作は、個人の自由と社会の偏見との対立を描きつつ、観る者に「人はどこまで過去から逃れることができるのか」という問いを投げかける。様々な角度から楽しめる、近年でも指折りのミステリー映画の秀作である。
(文・シモ)
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