プロが選ぶ、史上最も「殺陣がスゴい時代劇」は?(2)芝居とは思えない凄さ…ラストの命にやりとりに鳥肌
『SHOGUN 将軍』(2024)を筆頭ににわかに活気付く時代劇。そこに欠かせないのは殺陣である。今回は『十一人の賊軍』(2024)で「殺陣が格好良すぎる」と話題を呼んだ爺っつぁん役・東映剣会の本山力と、その先輩でレジェンドの峰蘭太郎という殺陣のプロの協力のもと、昭和から令和まで殺陣が魅力的な時代劇映画をセレクトした。第2回。(文・Nui)
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『たそがれ清兵衛』(2002)
監督:山田洋次
脚本:山田洋次、朝間義隆
出演者:真田広之、宮沢りえ、田中泯、小林稔侍、岸惠子、丹波哲郎
【作品内容】
幕末の頃、庄内・海坂藩の下級藩士・井口清兵衛は、労咳で妻を亡くしたあと、幼いふたりの娘と認知症の母とともに貧しい暮らしを送っていた。
ある日、清兵衛は幼なじみで親友の妹・朋江が、酒乱の夫である甲田豊太郎と離縁したことを知る。朋江の屋敷に甲田が乗り込んできたところに居合わせた清兵衛は、甲田との決闘を引き受けることになる。短い木刀のみで真剣の甲田を打ち負かしてしまった清兵衛は、やがてその腕を買われ、上意討ちの命を受ける。
【注目ポイント】
山田洋次監督が構想10年をかけて、侍の人生と純愛とをリアルに描いた作品。藤沢周平の同タイトルの短編小説と他2編から原作をとっており、第26回日本アカデミー賞ほか、あらゆる賞を総なめにした大傑作だ。
先に紹介した『必殺4 恨みはらします』とは打って変わり、静かで不器用な、ぼろぼろの身なりをした真田広之が主人公の清兵衛を演じる。
なるほど構想10年の大作の主役は、真田を置いてはほかなかったと納得させられる芝居と殺陣が素晴らしい。「真田といえばアクション俳優」というイメージを払拭する自然な芝居は、たとえば先達の山﨑努、中村嘉葎雄らといった名優のように、スクリーンを見ているのではなく、そこに人物がいて生活をしているようにしか見えないのだ。
殺陣師は久世浩。黒澤明作品の殺陣を手がけた久世竜の二代目である。黒澤作品の特徴であるリアリズムを重視したダイナミックな殺陣の系譜だ。
川辺で甲田を打ち負かしてしまう清兵衛の表情や動きには、腕に覚えがあるとはいえ、あくまで決闘であり、相手が真剣を持っていることを感じさせる生々しい緊張感がある。
そしてラストの上意討ちを命じられた清兵衛と余吾善右衛門(田中泯)の屋内での対決は、まさに命のやりとりにしか見えず、芝居とは到底思えない凄みである。とにかく真田の殺陣は、つけられた手ではなく、実戦のように見えるのだ。
ほかにも清兵衛が刀を研ぐ姿が藩内での仕事の様子など、侍の日常が細やかに描かれるのも興味深い。清兵衛の身支度を手伝う朋江の様子からは、武家に生まれた女がどのような知識を持つのかもわかる。本山力一押しの平成の時代劇映画だ。
(文・Nui)
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