日本の「胸糞悪い青春映画」最高傑作は? 鬱展開の邦画(4)とびっきり暗い…実在の殺人事件を基にした衝撃作
何物にも光もあれば影もある。大部分は爽やかなイメージで構成されている“青春時代”であっても、当然影の部分はある。今回は影の部分を色濃く感じることができる青春映画5選をご紹介する。ただ、どの作品も陰鬱とした展開が多いので見る時には心身のコンディション調整をしてから視聴することをお薦めする。第4回。(文・村松健太郎)
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実際の親殺し事件を基にした青春映画
『青春の殺人者』(1976)
監督:長谷川和彦
脚本:田村孟
出演者:水谷豊、原田美枝子
【作品内容】
主人公の順はケイ子との交際を巡って両親を立て続けに殺害、恋人のケイ子と二人で遺体を処理、遺棄する。その後、順はドライブに出かけ、一から出直そうとも考えるが、自責の念にかられて自供してしまう…。
【注目ポイント】
沢田研二主演、菅原文太共演の日本映画史に残るカルト作『太陽を盗んだ男』(1979)。「中学の理科教師が原爆を製造して政府を脅迫する」という、あらゆる点で破格のストーリーをもつ同作で一躍トップ監督に躍り出た長谷川和彦監督の長編映画デビュー作品がこの『青春の殺人者』である。
ちなみに本作が1976年の映画で、『太陽を盗んだ男』が1979年の作品となるが、これ以降長谷川和彦は長編映画を作っていない。宝の持ち腐れとはよく言ったもので、ながらく「次回作が観たい映画監督ランキング」の上位に名が挙がっていたが、そうした声も聞かれなくなって久しい。
『太陽を盗んだ男』ばかりがフィーチャーされがちな長谷川和彦作品だが、処女作である『青春の殺人者』の完成度も極めて高い。主人公の斉木順を演じたのは水谷豊、ヒロインのケイ子は原田美枝子が演じた。
水谷豊というと今は『相棒』シリーズの杉下右京のイメージが強く、落ち着いた理性的な大人なキャラクターが定着しているが、子役からキャリアを積み上げた叩きあげの人物であり、若かりし頃はなかなかに攻めた作品に出演していた。そんな水谷のフィルモグラフィの中でもとびっきり暗く、鮮烈な作品が本作である。
戦後生まれ初の芥川賞作家である文豪・中上健次の原作(「蛇淫」)は、1974年に起きた市原両親殺害事件をモチーフにしているが、本作では水谷豊演じる順が躊躇しながらも殺人に踏み出す、人間的な葛藤が執拗に描かれている。また、主人公が悪人ではないところに、やるせなさを感じる。映画好きであればアメリカンニューシネマへのオマージュを見出すことも可能だろう。
映画の撮影当時長谷川和彦が30歳、水谷豊24歳、原田美枝子が17歳という若さを感じさせる映画になっている。今でいうインディーズ体制で制作された本作だが、批評家筋から高く評価され、キネマ旬報ベストテンで1位、キネマ旬報主演男優賞(当時の最年少記録)を受賞した。
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